第5話『その男は』
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や、実際ハントからすれば悪魔の言葉だ。それが耳元で囁かれる。
一瞬だけハントの気持ちが揺れる。
楽しい宴会、うまい食事、優しい彼ら。
だが揺れるのは実際に一瞬だけだった。
今や魚人に支配されて苦しんでいるだろう故郷の人々を思い出す。
彼らが今回称している釣りとは実に簡単なことだ。
まだ子供といっても差し支えないハントを魚人島の沖合いで目立つように浮かばせる。当然、お人よしやら温和で有名な人魚はそれを見つけたら放置しない。ハントを治療しようと島に帰ろうとしたところを捕まえ、ヒューマンショップで売りさばく。
まさにハントを餌とした釣り行為。本来ならもっと複雑だが簡単に表現するならこういったところだ。
ハントはそれが上手くいくとは決して思っていない。
人間嫌いらしい魚人やらに見つかったり、魚人島の警察みたいな機構に重傷の人間が見つかったらどうなるか想像できないし、そもそも人魚だって重傷の人間を見つけたからと言って助けようとするとは限らないからだ。
だがそれを言うと船長たちは笑って「んなもん、こっちだって色々と考えてあるに決まってるだろぅ? ……お前は餌になることだけを考えておけばいいんだよなぁ」と答える。
だから、もしかしたら本当にうまくいくのかもしれない、とハントは一抹の不安をもっている
自分という人間を餌にして、もしも上手くいってしまったらどうするのだろうか。
――釣られてしまった人魚の将来はどうなるんだろう、故郷のみんなと同じか……下手したらもっと辛い目にあうこともあるのかな。
そういった人間を増やすことに協力しろと、今ハントは言われているのだ。
餌としてではなく自ら人魚たちに助けを求めるような囮になれと、今ハントは言われているのだ。
そうすればこの痛みから解放してやると、今ハントは言われているのだ。
――ありえない。
ハントの目に力がこもり、船長を睨みつける。
「死んでもお断りだ、バ――」
――カ野郎。
最後まで言いたかった彼だが、残念なことにそれは叶わなかった。
副船長の蹴りが腹にめり込んでいたからだ。
「ゲホっ……ぐ、ハ」
血が口から漏れ、腹にあった傷が開きボロ布が僅かに赤に染まる。
「また後で痛めつけてやるからなぁ」
「ま、死ぬわけじゃないんだから、安心してねー」
「致命傷だとさすがに治せませんので、それだけは頼みますぞ」
「そうだ、船長。俺いいこと考えたよ! 後で聞いてくれ!」
「頭の良いお前が、か。それは楽しみだなぁ」
「へへ。うまくいけば一回でことが済むよ」
口々に勝手なことを言って遠ざかる彼らの言葉を耳にして、途切れそうな意識の中、思う。
――殺されたほうがマシだ、ばかホモ野
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