第5話『その男は』
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うな体だが、致命傷と見られるであろう箇所は最低限の治癒はしてあるのか、乱雑に巻かれた包帯がボロ布の隙間から見え隠れしている。
本来なら真っ暗なはずの一室にも関わらず、目を凝らせばそこに少年の姿が見えるのは僅かに開いた扉の隙間から光が差しているからだろう。
「……っ」
少年が動いた。
動いたといっても僅かな身じろぎ一つだが、それでも確かに動いた。
「……くそ」
――状況は……変わらず、か。
首をめぐらせ、自分の置かれている状況を確認した少年は諦めたように小さく息をつく。
短い茶髪の黒い瞳の少年、年齢にして12歳のその少年はともすれば悲鳴を上げる自身の体を慎重に動かしながら上半身を起こして、壁にもたれかかる。
――死ぬのを覚悟してわりに生きてた……のはラッキーだったけどまさか人身売買の商品になって、しかも海賊に買われるとは夢にも思ってなかった。
改めて自分の置かれた環境を考えて嘆息を吐く。
思い起こせば約一週間前のこと。
ハント自身、目が覚めて驚いた。
なぜか生きている自分、そんな自分をつなぐ爆弾の鎖、ディスコと名乗る男に聞かされたヒューマンショップの商品として売り出されるという事実。
どうして自分がここに、とか。なんでこんな場所が存在しているんだ、とか。村の皆は無事だろうか、とか。傷の手当をしてくれたのは誰だろう、とか……エトセトラ。
疑問が多すぎて完全に頭がパンクしていたハントだったが、アレよアレよという間に落札され、海賊に買われてここに来た。
自分の村を襲った魚人たちと同様に海賊、しかも人身売買にすら手をかけるような人間たちということもあって警戒をしていたハントではあったが、そんなハントに彼らは優しかった。食事はもちろん、豪華な寝床にまだ癒えきらない怪我の手当て、毎夜のようにハントを交えて繰り広げられる楽しい宴。
どう接しても気の良い人間としかいえない彼らに、最初は態度の硬かったハントも、徐々に軟化していく。
そして、とある商談をもちこまれたのが数日前。
それに対して顔を真っ赤にして否定した結果が、今。
ボソ雑巾になるまで体をいためつけられ、今のハントは口をひらくことすら億劫な状態だ。
――みんなどうしてるかな?
ふとココヤシ村のみんなの顔を思い出す。
みんなもこんな目にあってはいないか、そもそも誰も死なずに生きてくれているだろうか。自分がボロボロのためか、尚更そんな心配をしてしまう。
――ん?
いくつかの足音が聞える。そうハントが感じた瞬間にいくつかの影と共に一室の扉が乱雑に開かれた。
扉が全開になったことで、ハントの目に飛び込む光量が一気に増加する。光量が増加したといっても実際には単なる室内灯の明かり。
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