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トロヴァトーレ
第二幕その三
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第二幕その三

「わかってるよ。母さんは俺の只一人の母さんだ」
「そうさ。そして御前も」
 アズチェーナもそれを受けて言った。
「あたしのたった一人の息子さ」
「うん」
 二人は頷き合った。そしてマンリーコは話を変えた。
「あの時の傷は深かった」
 その時の戦いのことが胸に浮かぶ。
「味方は敗走し、戦場には俺一人となった。味方を逃がす為に」
 彼は後詰となったのだ。
「そこにあのルーナ伯爵が来た。奴は俺に剣を向けて来た」
「そしてその剣で傷を受けたんだね」
「ああ」
 彼は答えた。
「あの時御前はあの男に情をかけたそうだね」
「うん」
 マンリーコはそれを認めた。宮殿での庭における決闘の話だ。あの時彼は勝ったのである。
「何故かはわからないけれどね」
「何故なんだい?」
「ううん」
 マンリーコは首を傾げた。
「あの時俺は奴を倒したんだ」
「それで全ては終る筈だったんだ」
「しかし御前はあの男の命を助けた」
「あの時ね、剣を振り下ろそうとしたんだよ」
「へえ、そうなのかい」
「うん。けれどその時身体が硬直したんだ。そして天から声がした」
「天から」
「そうなんだ。殺してはならぬ、と」
「おかしなこともあるもんだねえ」
「そう思うかい、母さんも」
「当たり前だよ。それで御前はそれに従ったんだね」
「ああ。俺はその場は退いた。剣を収めてね」
「ところがあいつはそれを恩には思わなかった」
「ああ、その通りだ」
 どのみち殺すか殺されるかの関係である。情なぞは不要であった。
「そして俺は傷を負った。もう天から何を言われようとも俺は従わない」
「殺すんだね」
「当然さ。俺はその為に死ぬかも知れなかったんだからね」
「そうだよ、そうするがいいさ」
 アズチェーナは息子の決断を褒めた。
「絶対に倒すんだよ」
「ああ」
 マンリーコは頷いた。
「この剣をあいつの心臓に突き立ててやる」
 彼は剣を抜いてそう言った。
「あの極悪人の心臓を貫く。そして人思いに決めてやる」
 剣が炎の光を受けて赤く光る。それはマンリーコの白面も照らしていた。微かに歪んでいるその左の面を禍々しく照らし出していた。
「そう、そうするがいいさ。そして」
 アズチェーナは息子に対して言った。
「仇をとっておくれよ」
「うん」
 マンリーコは頷いた。ここで黒い服を着た使者が姿を現わした。
「マンリーコ様」
「どうした?」
「これを」
 使者はマンリーコの前に来ると跪いた。そして一片の書状を差し出した。
「ふむ」
 彼はそれを受け取った。そしてそれを開いた。
「カステルロールは我等の手中に帰した」
 彼はそれを読みはじめた。
「よって貴殿には主の命をもって守備を司ってもらいたい。す
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