第十二章
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が、僕の幻聴でなければ、
―――『すき』…と聞こえた。
…喉のところまで、熱い塊がこみあげてきた。気を抜くとこれが弾けて泣くか叫ぶかしてしまいそうだ。必死に押し込めて、喉がひくひく震えるのも必死に飲み込んで、一言だけ搾り出した。
「も、もう一度言って…」
「…やだ。もう言わない。姶良に言わせるつもりだったのに」
柚木は耳まで真っ赤にして、ふいと顔をそらして腕を解いてしまった。
「じゃ。行くよ」
そう言って、何事もなかったかのようにコロコロと車椅子を転がし始めた。
「――今ので、終わり…?」
僕の中で、何かが「ぷちっ」と弾けた。
柚木が何か言いかけるのも委細かまわず、車椅子を蹴って立ち上がると柚木に詰め寄った。
「ちょ…姶良」
「…もっとこう、余韻めいたものとか、誓いのナニとか、ないのか、そういうの…」
「やだ、今そんな場合じゃ…」
「場合なんて関係ない!…終電逃して部屋に泊まったり、謎のオムライス作って帰ったり、首筋に涙落としたり、頭に胸乗せたり!思わせぶりなことをされる度に、僕がどれだけ思考回路を磨耗させてきたと思ってるんだ!?それを柚木は、一言で済ますのか!」
「そ、それだけ聞くと私が痴女みたいじゃん…」
僕が追い詰めれば追い詰めるほど、柚木の頬が紅く染まっていく。…今度こそ本当に、柚木が、僕を。そう思うだけで気が変になりそうだ。脳の中を、麻薬的な成分が駆け巡る感じ。…いや、攻撃色丸出しで突進してきたオームの前に、急に好物のエサかなんかが落ちてきて、咄嗟に青になりきらず間をとって紫になっちゃった感じ…といったほうが近いだろうか。
「…じゃあどうすればいいの」
「たとえば…」
ニット帽をとり、柚木の目を覗き込んだ。
「…今度は正面から、全力でこう、2、3回弾みをつけてぐっと抱きしめてもらおうか」
柚木がガバッと胸を隠して、じりじりとあとじさった。
「…それは、余韻とか誓いには関係ないよね…」
「君がそう思うならそう思ってもいいよ…ただ僕は『ああしたもの』がニット帽越しに触れただけというのがこう…何かもう自分でもおかしいんじゃないかってくらい、やるせないんだよ、分かるかな」
「あ、うん、ごめん…でもそういうの、まだ早いよ…ね?」
「何言うの。…もう、1年近い付き合いだよ」
「そういうことじゃなくて、まだ告って1分経ってない…」
「何分ならOKが出るんだ!」
「分単位!?」
「…柚木、『ゾウの時間、ねずみの時間』という概念を知っているかな」
「ざっくりとは…」
「君がただ無心に、僕の頭に胸を乗せてる3秒の間…その間に、僕の脳内計画では僕の肩には24歳の時に生まれて今年4歳になる長男が乗ってるんだ…場所は後楽園な」
「…いや、全然意味がわからないんだけど」
「つまり柚木にと
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