第十二章
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渡り廊下の先は、人気の途絶えた精神病棟。…さっき、僕たちが出てきた所だ。少し、行くのがためらわれる。
「…これ進んだら、まるで僕が精神病みたいだな」
「仕方ないじゃん、それっぽくしててよ」
柚木はかまわず渡り廊下に向かう。少し床が悪いみたいで、車椅子ががたごと揺れた。ノーパソの液晶を見ると、黒い背景にビアンキと僕らが映っている。柚木の胸が、僕の頭上15センチくらいのところで揺れていた。どっかで躓けー、そして20センチほど前のめりになれー!と念力を送るも、渡り廊下は無事に終わってしまった。あとは陰鬱になりそうな薄暗い廊下が続いているだけだ。
「はぁ…僕ら、何やってんだろうな」
「ホントだね。ナース服着て、車椅子押して」
「紺野さんと会ってから、ずっとこんな調子で振り回されっぱなしだ」
「そうでもないじゃん」
「そうだっけ」
「紺野さんの嘘を見抜いて、追い詰めてたじゃん」
「いつ」
「ほら、ジョルジュで」
―――ブレーキを引く。車椅子が、ぎしりと音を立てて止まった。
「――なんで、知ってるのかな」
「え、あの…紺野さんに…聞いて…」
「僕は口止めした。あの人は、そういう約束を破る人じゃない」
振り向いて、柚木を真っ直ぐ見上げた。…自分でもびっくりするくらいに、怒りが湧きあがってきた。
「…あの場に、いたんだな」
柚木はぴくりと肩をふるわせて、目を逸らした。
「――姶良だって、悪いんだから」
「………」
「いつもそうやって1人で全部背負い込んで、何もなかった振りするんだもん。…だから自分で突き止めてやろうって」
「だからって、そんな盗み聞きみたいなことしたのかよ!!」
立ち上がって、柚木の肩を掴んだ。僕の声は、薄暗い廊下に響き渡って硝子を振るわせた。
「だ、だめ、大声だしちゃ」
「………いいよもう」
声が震えた。腹立たしさは消えないけど、今騒いだってどうにもならない。手遅れだ。僕は乱暴に車椅子に座った。…僕がナイト気取りで紺野さんに挑んだのを知って、たぶん僕の気持ちにも気がついて、それでもそ知らぬ振りで、今までどんな気持ちで僕に接して来たんだよ…それを思うと、立ち上がってぐわぁぅあぁぁとか叫びながら頭を掻き毟って全力で逃げ出したい気分だった。…怒りと恥ずかしさで、心臓がバクバクする。
「……出してよ。今は『彼』を探すのが」
優先だ、と言いかけて、息が止まるかと思った。
柚木の白い腕に、後ろから抱きしめられていた。
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こ、この、後頭部に当たっている、ふにっとした柔らかいものは何だ…!くっ、ニット帽邪魔だ、車椅子の背もたれ、もっと邪魔だ!ニット帽をかなぐり捨てようと手を伸ばした時、耳元に柚木の唇が触れた。
「ふわっ……」「姶良」
耳元で囁かれた言葉
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