第四幕その四
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炎が」
「落ち着いて」
しかし彼女は呟き続ける。
「炎が髪にまでつき全身を覆った。目が溶けそれでもあたしを見ているんだ。母さん、見ているよ」
それが彼女の心の原風景であった。燃え盛る炎の中で苦しみながら死んでいく母。アズチェーナにとってそれは地獄の光景に他ならないのだ。
「何故だい、何故母さんが焼き殺されなきゃならないんだい。何でだよ」
「落ち着くんだ、母さん」
「マンリーコ」
アズチェーナは怯える顔をマンリーコに向けた。
「仇を、仇をとっておくれよ、お願いだから」
「ああ」
ここは彼女を宥めることに専念した。
「わかったから落ち着いて。そして今は寝たらいいよ」
「寝ていいのかい?」
「当たり前さ。俺がずっとここにいるから。いいね」
「ああ、わかったよ」
アズチェーナは頷いた。そして床に寝転がった。
「どうも疲れているようだね。どうかしてるよ」
「仕方ないさ。こんなところにいたら」
「うん、そうだね。じゃあお休み」
「お休み、母さん」
マンリーコはあえて優しい声をかけた。そして彼女を落ち着かせた。それで自分のマントを彼女にかけた。
「これなら温かいだろ」
「有り難うよ」
アズチェーナの目に光るものが宿った。
「御前は優しい子だよ、本当に」
「母親を大事にしない息子なんていやしないよ」
マンリーコはそれに対してそう答えた。
「だから、今はお休み」
「そうだね。そしてまた二人で暮らそうね」
「あの山へかい?」
「そうさ、あの山で」
アズチェーナは半ば眠りながらマンリーコにそう答えた。
「そしてまた笛を聴かせておくれ。あたしはそれを聴きながら眠るから」
「ああ」
マンリーコはそれに答えた。
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