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王道を走れば:幻想にて
第四章、その7の1:いろんな準備
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子作りを、してました」
「・・・」

 隣に居る慧卓が顔を背けるのが雰囲気で理解出来た。己と同じように、顔を赤らめて、羞恥を抱いているのであろうか。奇妙な連帯感が沈黙の内に完成したのかは知れないが、二人は互いを見ないように顔を背け合っていた。

「アリッサ様。御顔を御上げ下さい」

 アリッサはぴくりと肩を震わせる。顔を上げるのが酷く恐ろしく感じたのだ。『平手打ち程度で済めばいい、でも同盟解消だなんて言わないで欲しい、どうか頼む』という祈りにも似た思いを抱きながら、恐る恐る視線を戻す。そこには、恐れていた筈の怒りを湛えた顔ではなく、慈愛の笑みを湛えた二人のエルフの姿があった。

「お子様が生まれましたら、是非一度、私共に見せていただけますか?」
「私も赤ん坊を抱いてみてもいいでしょうか?将来に向けて、勉強をしておきたいのです」
「・・・・・・」

 肩の力が抜けるやら、口の中が乾くやらでアリッサは反応に窮し、腹いせ混じりに慧卓を睨み付けた。事態の大原因である彼は視線に竦んですぐさま目を逸らし、先程までの彼女と同じように引き攣った笑みを浮かべた。


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 ひうと、一陣の風が起伏のある地べたを滑った。埃や塵が渦巻きのように晴れた空を舞い、道を行く馬の身体に当たる。馬上で手綱を握っていたパックは、頬と頸に感じる冷たさに震える。王国領からエルフ自治領に少し足を踏み入れた場所であるが、北方は早々に彼を歓迎してくれたようだ。

「ぁぁ・・・寒いなぁ・・・」
(何さ・・・エルフの土地ってもうこんなに冷え込んでるのか?いや、王都が暖かいだけか?何にせよ・・・寒いわ)

 王都の暑さに比べれば、まるで冬のような冷たさであった。時は十月の半ば。王都でも漸く衣を厚くし始める時期でもあり、パックもそれに合わせて防寒用の衣服を事前に購入していた。しかしそれを羽織っても尚、この冷たさには参るものがあった。北方の厳しさというものを直に認識しつつ、彼は執政長官から授かった一通の書状を手に、北へ北へと歩いていく。
 彼が歩いてきた道は薄れた轍が残っているだけで、道はほとんど機能していない。広大な草原をくり貫いて伸びているだけに、尚更迷いやすい傾向にあった。案の定、彼もまた迷ってその道から僅かに逸れてしまい、小高い丘陵地帯に足を踏み入れていた。

「お?なんぞあれ」

 左方に見える丘の向こう側から、一筋の白煙が立ち上り、宙を漂っているのが見えた。このだだっ広い大自然とは似つかわしい、人工の煙である。興味をそそられたパックは馬首を丘の方へ向けて、それを登り切る手前で馬から降りる。そろそろと用心しながら丘向こうの光景を見遣ると、彼は雀斑顔を緊張させる。
 起伏の激しい丘陵の間に、ちょうど平野の如くなだ
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