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トロヴァトーレ
第四幕その二
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私がここに来たのには理由があります」
「あの男のことか」
「はい」
 彼女はその言葉に頷いた。
「伯爵にお願いがあってこちらに参りました」
「一体何だ」
 伯爵は立ち上がった。そして彼女に問うた。
「あの方をお救い下さい」
「馬鹿なことを」
 彼はその言葉に対し首を横に振った。
「その様なこと出来る筈もない」
「いえ、伯爵ならば出来る筈です」
「確かにな」
 伯爵はそれを認めた。
「私は殿下より捕虜の処遇を認められている。それは事実だ」
「なら」
「だからこそだ。私はあの男とその母親だけは許すことができないのだ」
 彼は憎悪を込めた言葉でそう言った。
「それは貴女もよくわかっていることだろう」
「はい」
 それに答えた。
「ならばこれ以上言うことはない。帰ってもらいたい」
「そういうわけにはいきません」
 しかし彼女は引かなかった。
「私にも意地があります」
「意地か」
 それを聞いた伯爵の顔が曇った。
「それは私にもある。わかっておられよう」
「はい」
「父の、そして私の恨み、晴らさなければならないのだ」
「私は神に誓いました」
「私もだ」
 伯爵はそれにも臆することなく答えた。
「復讐と憎悪の神にだ」
「それでもお願いがあります」
「私の神には慈悲の神はない」
「それでも」
「駄目だ」
 伯爵はまた首を横に振った。

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