暁 〜小説投稿サイト〜
トロヴァトーレ
第三幕その二
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
よ。ジプシーは当てもなくさすらうものさ」
「ほう」
「だからふらりとここに来たんだよ。あたし達にとっちゃ大空が屋根、世界中が故郷だからね」
「それは戦場でも変わらないということか」
「そうさ」
 彼女はその質問には滞りなく答えた。伯爵もそれには満足したようであった。
「それはわかった。では質問を変えよう」
「次は何だい?」
「御前は何処から来たのだ」
「ビスカヤからさ」
 アズチェーナはそれにも答えた。
「嘘ではないな」
「嘘をついたら唯じゃおかないんだろう?」
「その通りだが」
「だから正直に言うよ。あたしはビスカヤの禿山にいたんだ」
「何っ」
 それを横で聞いていたフェルランドの顔色が変わった。
「あの山にか」
 その心を疑念が急激に覆っていくのがわかった。そして彼女を見る目が先程とは全く変わっていた。
「貧しかったけれどね。満足していたよ、その山での暮らしに。仲間達もいたしね」
「ジプシーのか」
「他に誰がいるのさ。それに息子もいたし」
「息子が。今もビスカヤにいるのさ」
「出て行ったさ。あたしと同じジプシーなんでね」
 彼女はいささか自嘲を込めてそう答えた。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ