第十話
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ズに駐留しておった儂のところに慰問に来おった旅芸人が流行らせた病がもとでお前の母の命は奪われた。お前自身その病の残した痕が残っておろう。だから儂は彼の国の話はしとうはないのだ!」
珍しく怒りを露わにした父上に俺は申し訳ありませんと素直に詫びた。
とはいえこれは初めて知りました。確かに背中一面と左腕の二の腕あたりには天然痘に羅感して生き延びた者の痕があった。大抵これは顔面全てを含め、体全部に出るものなのだがどういう訳か俺はこの程度で済んでいた。
「伯爵、セルフィナどの、声を荒げて済まなかった。そろそろ儂は政務に戻る。」
父上は俺のほうを見ようともせず去っていった。
「殿下、あまりお気になさいますな。なに、陛下とて人の子、たまたま腹の虫が悪かったのでしょう」
「王妃さまの事、おいたわしい事と存ぜます。なれど、殿下が命永らえてくだすったことで陛下の御心がどれほど御慰めなられていることか。
そもそもわたくしの考えなしの発言が原因で殿下と陛下の御心を患わせ、申し訳ございません」
伯爵は気落ちしている俺に慰めの言葉をかけてくれ、セルフィナさんはいつの間にか俺の近くに来ていて俺の手を掴むと両手でぎゅっと握ってくれた。
そのあとの午後の務めにはどうしても身が入らず、叱責されることが度々だったこともあり俺の心はずいぶん沈んだ。
普段怒らない人を怒らせてしまうということは、ほんと心に来るものがある。
何も悪くないセルフィナさんにまで謝らせてしまって自己嫌悪がぐるぐるぐるぐる心の中を支配した。
その日、帰りの遅かった父上と挨拶以外ほとんど何も話せず、冷たく固くなった食事を共にしてその日を終えた。
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