暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
14話「安価な珍味達 (1)」
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「今日からよろしく」

「改めまして、アシュレイ=ナヴュラだ。よろしくな」

 ザワザワとした食堂で、改めて握手を交わす。

 ユーゼリアはアシュレイの護衛を受け入れた。翌朝共に朝食を取ったとき、開口一番にだ。
 夕べ遅くまで考えていたのか、その顔には少しの疲れが見えたが、よろしくという表情は晴れやかで、正直さらなる重荷を背負わせたかと少々不安だったアシュレイはほっとした。

「呼び方とかは今までどおりでいいからね。それから約束通り、報酬は3食と常識講座……でいいの? ほんとに?」

「ああ。こっちから言ったことだ。…昼寝は?」

「旅は歩きよ? 言っておくけど、召喚獣なんてのも却下だからね。あれ呼び出してるあいだずっと魔力を持っていかれるんだから!」

「なら馬車を買おう」

「お金がかかるけど……でも移動も楽だし、逃げるとき速いわね。幸い貯金に余裕もあることだし…」

「それにいざというときの盾にもなる」

「うーん、今まで1人だったからなあ。必要なかったんだけど…買うかぁ」

 ユーゼリアは椅子を斜めに天を仰ぎながら、何か吹っ切れたようだった。コップで買った何やら赤い果汁を一気に飲むと、言った。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。昨日までにはなかった穏やかさと楽しそうな表情も含んだそれは、食堂にいる多くの人の視線を容易に集めるものだった。周りの男どもが息を呑むのがわかる。

「んじゃ、お邪魔虫が寄る前に行きましょうか、お嬢さん」

「突然、何? お邪魔虫って?」

「いーえ別に。お邪魔虫はお邪魔虫だよ」

「なんなのよ」

 まあまあとユーゼリアの背を押しながら食堂を抜ける。後ろに軽く殺気を漏らしておくことも忘れない。
 美しい少女を目で追っていた男衆は、その殆どが冒険者だったにも関わらず、突如我が身を襲った悪寒に皆総じてフォークを取り落としたそうな。そしてそれが誰がやったものなのかを見ていた女将は、ひとりで豪快に笑っていたらしい。





******





 さて、ポルスを出た2人は、とりあえずの進路を公益都市としてそこそこ有名な町、シシームへと向けていた。昨晩過ごしたあの小さな丘を越え、ヘスティ森林西部を通るルートである。シシームに至る前に1つ小さな町があり、そこも通る予定であった。

「おや」

「どうかした?」

 森に入って数時間。昼を回り、そろそろ昼食にしようかと言っていると、アシュレイが声を上げた。

「何か近づいてる。速いな」

「魔物ね。ヘスティで足が速いというと…ウルフ種かな」

 ユーゼリアが言い終わるとほぼ同時、道の脇から灰色の毛並みのオオカミ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ