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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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 その声は瓢然と微笑を浮かべている〈皇国〉陸軍中佐の物だった。

「・・・・・・申し訳ありません、中佐殿。」
 未だに驚きが覚めないのかどこか呆然とした様子で謝罪する佐脇へ短く頷き、馬堂中佐は新城近衛少佐へと視線を向ける。
「君もだ、少佐。陸軍だろうと近衛だろうと、将校が立ち話をする上に口論するなんて言語道断だ」
「はい、中佐殿。申し訳ありません」

「そうそう、偶には素直にする事も大事だよ。
――あぁ大尉、君もそろそろ行った方が良かろう。時間をとらせて悪かった、また近い内に会うだろう。その時を楽しみにしている」

「はい、中佐殿。失礼致します。」
 佐脇は馬堂中佐にだけ敬礼し、立ち去った。
 ――随分と露骨な事だ。

「――それで?誰か尋ね人かな?」
出口へとゆっくり向かいながら豊久は新城に話し掛けた。

「はい、中佐殿。窪岡戦務課課長閣下に挨拶を、と」

「あぁ、窪岡課長閣下か。
退庁時刻の前には本部に戻ると言っていたから――時間を考えれば出口で会える筈だ。
多分、閣下もお前を待っている筈だよ。何しろ、ある意味ではお前の世話を若殿以上にしているからな」

「?」
 彼の言葉の意味を図りかねていると、馬堂中佐は軽く笑って正解を告げた。

「前の人務部長だよ。今は栄転なさっているけどな」

「成程。 それは確かにお世話になっていますね」
 新城も苦笑いするしかなかった。
「あぁ、お前を北領に送り込んだ張本人さ、と。出迎え御苦労さま、少佐」
 馬堂中佐が答礼をする先にはいかにも秀才参謀といった容貌の少佐が居た。
「はい、中佐殿――新城少佐、窪岡閣下があちらの馬車でお待ちです」
 軍人としては少々細身であり、血色と感情の薄い顔には見覚えがあった。
 ――確か馬堂家の子飼の者で戦務課の参謀だった筈だ、窪岡少将の出迎えか。
「それでは、近いうちに会おう、新城近衛少佐――大辺、相談したい事がある、少し良いかな?」
 ふ、と一瞬邪気のない笑みを浮かべ、すぐ真顔に戻ると秀才参謀へ声をかける・
「はい、中佐殿」
 二人は連れ立って馬堂家私用の馬車の中へと消えていった。




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