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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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人当たりは悪くない、幼年学校を出ずに、半年の見習士官制を経て任官したのだが、将校としても兵と共に苦労する事を厭わない真面目な将校で、こう言ってはなんだが人としての評判は新城よりも遥かに良い。俺も先の駒州兵理研究会の様に駒城での行事で顔を見かければ歓談する事もある。他意なく友人と言える仲だろう。

 問題は例によって新城だ。彼は駒州で初等教育を受けていた時に――何というか典型的な異分子への極めて子供らしい対応をとられていたそうだ――要するに虐め、である。
人間が道徳的になるには自らを学ぶ事よりも相手を批判するのが一番であり、皇帝が国を治める楽な方法はより良い政策を考える事ではなく、小国を侵略し、略奪を行い、奴隷を自国に持ち込む事である。謂れのない敵にとってはたまったものでは無いがそれは忌々しい事に何処でも世の常だ。
「こっち(わたしたち)」は「あっち(あいつら)」と違う、事の大小はあれどもそれが暴力の源泉であり、それは幼い陪臣達にも例外なく適用された。
――その後、何があったのかは知らない、だが、俺が二人と知り合った頃には直衛は周囲から一種の禁忌(タブー)の様な扱いを受けていた。俺が、まぁ何というか若気の至りで大殿の書斎に入り込む手段として声をかけるまでは直衛は、隅で誰とも口を利かずに本を読んでいるだけの少年だった。彼が同好の士であった俺相手以外に、友人らしい友人を作るようになったのは十五になってから入った陸軍特志幼年学校の強制的な共同生活を経た末であった。
 ――そして、その所為か育預殿との縁は腐っても切れないのだ。



同日同刻 兵部省 陸軍局 庁舎
〈皇国〉近衛少佐 新城直衛


「御昇進おめでとう御座います、少佐殿」
 忌々しさを隠さずに佐脇俊兼大尉が言った。
「ありがとう、大尉」

「しかし、幸運でしたな、優秀な大隊長が俘虜となったお陰で貴方が少佐とは。」
 悪意を隠さぬ口調で言う。
 ――ふん、馬鹿らしい。人殺しの才能を妬むのか、この愚か者は。
 馬鹿の後ろで豊久が苦笑している。
「全くだ。僕も驚いているよ、大尉(・・)。君はもう中佐にでも成っていると思っていた。」
 彼に視線を向けながらそう嘯く。
「・・・」
 怒りを込めて格上へと躍り出た新城を睨みつけている佐脇とそれを挑発する新城。眼前の光景に溜息をついた青年中佐は辟易とした様子で調停の言葉を発した。
「おいおい二人ともキツいなぁ。――そこまでにしなよ。」
 だがそれに気がつかなかったのか佐脇が明確な怒りを発した。
「自分は他人の武功で昇進する様な「あのさぁ、黙れ、と言っているのだよ、私は」」
 冷たく、低い声が佐脇の言葉を遮った。
「!!」
 佐脇は言葉を遮った男へ顔を向けた。
「おや、聞こえなかったのかい?――佐脇大尉。」
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