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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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内定ですが。そう承っています」
そう云って肩を竦めるがそれは自分が死ぬか自決寸前の状況にない限りはそうなるだろうと分かっていた。
 ――駒城保胤中将の御指名だ、確定同然だろうな。
「その後はまだ分らないが、貴様も父君とならんで閣下となるやもしらんな」
 ――まぁ戦時中だと十六年間、少佐を務めていた人が五年で中佐から元帥閣下になって、しまいにゃ大統領へと上り詰める事もあるからな。比べるのも可笑しな話だ。

「そんなホイホイと昇任するような事態にはならないでほしいものですがね。それだけ上の層が亡くなっているか、私が悪目立ちしているわけですから」

「俺の処から大辺を引き抜くのだ、これからも苦労してもらうし悪目立ちもしてもらうぞ。貴様も表舞台に引き摺り出される時だ」
 ――表舞台、か。誰がお膳立てする舞台なのやら。
 
「育預殿が奏上なんてする御時世ですからね。例の奏上も――まぁ言えない事も言いたくない事も言ってくれました。
まぁ、彼らしいと言うべきやり方ですよ」
戦務課長は新任中佐の言葉に頷きながら話題を変える。
「育預――新城少佐が近衛に送られるのは聞いているな?」

「親王殿下――衆兵隊司令長官閣下の内意をうけていると聞いています。」
「そうだ。で、あるからこそ貴様も微妙な立場にある。貴様の周囲が物騒になる事も理解しておけ。望まぬ神輿に担がれる事も十二分に有り得る」
「はい閣下。気を付けます。駒城閣下の恩顧に報いる為に微力を尽くします。」
 ――そうだ、今の俺はこれで良い、後は皇都に残る馬堂家当主達に任せるとしよう。
政は父様の手にあるべきだ。人間、何もかも自分でやろうとすると大失敗を起こすものだ。――それを忘れてはいけない。



同日 午後第二刻 兵部省 陸軍局 人務部
人務部人務第二課長 草浪道鉦中佐


 ――公用と言えど、丸一日も部長が居ないと少し困るな。
 部長の決済が必要な書類の束を机の隅に乗せながら草浪中佐はうんざりとしたようすで積み上げられたそれを眺める。
 この半日で馬堂中佐を筆頭に何名もの士官達に要望案が持ち込まれ、前線に送られる尉官達の異動予定表だけでも結構な厚さになった。大半が前線に投入する予定の部隊であり、隣の第一課では自身も含めた同様の高級将校たちの異動案も作られているのだろうと思うと胃が不快に蠢いた。
 それを誤魔化すかのように、草浪は彼らが提出した申請書に職分以上の熱を込めて目を通す。
 ――さて、馬堂中佐は中々豊守殿に似た人物の様だ。父に似て目端が利く人物なのは間違いないだろう。だが、問題は彼自身よりもその家族――父と祖父を含めた三人だ。
そして現状、情報課次長と親密な関係を築いており、彼の助力もあってか、動きが掴み辛くなっている。それでも断片的な情報
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