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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十二話 兵部省で交わす言葉は
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――守原定康であった。守原英康の甥であり、護州公子の少将である。
「これは・・・・・・・」
 ――このタイミングで、こう来るのか、畜生、意外とやり手だな。
直観的に豊久は守原が先の西原信置達との密談を察知した――真偽は兎も角、今はそう考えるべきだと判断した。
 ――だが、こんな事で防諜室出身者の顔を崩せると思うなよ?
「――成程、課長殿のおっしゃるように、私も分不相応に注目されているようで」
 ――さて、とついでにカマをかけてみるか?
「護州公子閣下が私に興味を抱くとは――ならば、護州公閣下は、昨今の情勢を如何お思いでしょうか?」
 持病持ちで実権を弟である英康に奪われた当主――護州公・守原長康。弟である英康大将の直情的で苛烈な性格とは対照的に五将家当主には不適当な程に情に厚く、温和な性格と政治に関わらない事から人々が皇家を敬う様に彼を慕う人間は少なくはない。
 ――実権を握っていないからこその人望なのかもしれないがだからと言って、けして無視してはいけない存在だ。
「長康様は――殿は、ずっと臥せっておいでだ。この一朝有事の時だ、守原大将閣下が御家を率いる事になるだろう」
 僅かな逡巡の後の慎重且つそっけない言葉に豊久は内心舌打ちをした。
  ――早々襤褸を溢すような人じゃないか。
「君はこれから新編聯隊の面倒をみなくてはいけない、その事も忘れないことだな。
あまり古巣に関わってそちらを疎かにするのは感心しない」

「はい、それは分かっています」

「君の場合は概ね、異動は駒州鎮台内で完結しているようだから私もあまり煩わされずに済んでいるが、近衛でも剣虎兵部隊を編成するようだが君の部下であった新城少佐は何か充てがあるのか知っているか?もし第十一大隊から引き抜くのだとしたら相応の準備が必要なのだが」

「どうでしょうか?私も将校を数名程頂くつもりですが近衛となりますと兵の教育からして面倒ですから、兵たちも随分と引き抜かれるのではないでしょうか?
それに、年長の者達を数人、剣虎兵学校に回したいとおもっております。兵を含めてですが」

「下士官にして、か。横紙破りだが剣虎兵の需要が増加しているから止むを得ない措置であると云うべきか。――覚悟しておくか」
溜息をつくとぱたり、陸軍の人務を背負っている軍官僚は面会の終わりを告げるかのようにパタリと帳面を閉じた。

 部屋を出て、次に軍務部総務課へと向いながら馬堂中佐は考えを纏める。
 ――草浪中佐、質問には答えていないが面白い事を漏らしてくれたな。推し量るべきは、護州派閥の内がどれ程の人物が英康個人に忠勤なのかだな。そうなると気になるのは――守原定康、か。
  無意識に懐にいれた書状を撫でる。
 ――今まで彼に注目する事はなかったが・・・これは如何に解釈すべきなの
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