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ホフマン物語
第四幕その九
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フマンはそんな彼女を必死に元気付けようとする。だが冷たくなっていく彼女の身体がそれは無駄なことだと教えていた。
「そんなことは・・・・・・」
 言っても空しく聞こえるだけであった。自分でもうわかっていた。だが言わずにはおれなかったのだ。
「有り難う、ホフマン」
 ジュリエッタは生気のない顔で彼に礼を述べた。
「最後にいい夢を見せてもらったわ」
「そんな・・・・・・」
「けれど。これでお別れね。心が砕けてしまったから」
「嫌だ、そんなのは嫌だ」
 ホフマンは必死になってそれを拒もうとする。
「僕はもう。僕だけ生きているのは嫌だ」
「貴方は一人じゃないわ」
「えっ!?」
「それも。何時かわかるから。私も一人じゃないし」
「それは一体」
「人は皆様々なものを持っているということだよ」
 ニクラウスがここで彼にこう述べた。
「色々なものを」
「そうさ。君が今まで会ってきた人達もね」
「あの人達が」
「そうだよ。それがわかった時君は」
「僕は」
ホフマンは友の声に応える。
「何かになれるだろうね」
「なれなくてもいい、今は」
 だがホフマンはそれを拒んだ。
「今は。ジュリエッタと永遠にいたいんだ」
「御免なさい」
 だがジュリエッタはそれをできないと言った。
「私はもう」
「そんなのは認めないよ」
「ホフマン、気持ちはわかるけれど」
 ニクラウスは彼の肩に手を置いた。そして言う。
「もう彼女は」
「そんな・・・・・・」
「さようなら」
 彼女は遂に別れの言葉を口にした。
「また・・・・・・何時か」
「何時かなんて・・・・・・」
 ホフマンは最後までそれを拒もうとした。
「僕は・・・・・・認めたくはない」
 ジュリエッタは静かに目を閉じた。そしてホフマンの腕の中で倒れた。それで終わりであった。
「ジュリエッタ!君まで!」
「これもまた彼の運命なんだ」
 ニクラウスはそれを見て沈痛な声を述べた。
「それから何を手に入れるか。それが問題だ」
 ホフマンはジュリエッタの冷たくなった身体を抱きながらその年の最後の時を過ごした。彼とニクラウスがいる運河はもう夜の闇に包まれていた。その中を無気味な哄笑が響き渡っていた。それが誰のものであるか、地の底から響く様な声が全てを物語っていた。

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