第四幕その九
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心が戻ったのね」
「そして貴女の心も。ほら」
そう言って胸からあの像を取り出してきた。
「ホフマン、今は出すな」
だがそれはニクラウスが制止した。
「どうしてだい?」
「危ないだろう。何かあったらどうするんだ」
「何かって。何が起こるんだよ」
ホフマンはムッとした顔で友に問うた。
「今更何も起こる筈がないじゃないか」
「いいのか、後悔しないんだな」
「後悔って。彼女にこれを渡さない方がずっと後悔するよ」
「わかった。本当にそれでいいのか」
「ああ」
彼は言った。
「何があっても後悔はしないよ、絶対に」
「じゃあ出すといい」
ニクラウスは見放した様に言った。
「何があっても知らないからな。だが僕はそれでもここにいるからな」
「また変なことを言うな。まあいいさ」
気を取り直してジュリエッタに顔を向けて言う。
「ジュリエッタ」
「はい」
「受け取って。これで君は自由だ」
「自由」
「そうさ。もうあんな無気味な男に従うことはないんだ」
彼は優しい声でこう言った。
「これからは。自由に生きられるんだ」
「自由に」
「僕と一緒にね。来てくれるかい?」
「ええ」
彼女はこくり、と頷いた。
「喜んで」
「よかった。それじゃあこれを渡すね」
「はい」
ジュリエッタは自分の心を受け取ろうとする。だがその時であった。
突如として二人の間に何かが飛んで来た。それは一羽の烏であった。
「烏!?」
「それもこんな真夜中に」
真夜中であろうと烏はやって来た。そして一直線にホフマンの手に向かう。狙っているのは彼ではなかった。彼が手に持っているものであった。
「あっ!」
ホフマンは叫んだ。だがそれは遅かった。烏はガラスの像を嘴で突いた。そしてそれを粉々に砕いてしまった。
砕けたガラスがホフマン達の足下に散らばる。それはもう原型なぞ留めてはおらず完全に破片となってしまっていた。その破片がそれぞれ光を照らしていた。夜のヴェネツィアを照らす様々な色の光を。砕けたガラスはそれでホフマン達に何かを語ろうとしているかの様であった。
「そんな・・・・・・」
ホフマンはその砕けたガラスを見下ろして呆然としていた。
「何でこんなことに」
「ホフマン・・・・・・」
横からジュリエッタの声が聞こえてきた。それは話す側から急激に弱ろうとしていた。
「結局、これが私の運命なのね」
「ジュリエッタ」
見れば顔が青く、そして蒼白になろうとしている。弱々しくなっていく顔からは生気がなくなってきていた。
「結局、娼婦は何処までいっても娼婦なのよ」
弱々しく微笑む。そして前に倒れていく。ホフマンはそれを受け止めた。
「心なんて。必要なかったのね、私には」
「そんなことはないよ」
ホ
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