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ホフマン物語
第三幕その一
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「わかっている。彼にはよく言って聞かせよう。フランツ」
「はい」
 小柄で背中が曲がり腹の出た中年男がやって来た。腹は出ているのに手足は妙にひょろ長くまるで虫の様であった。
「御客様のようだ。案内してくれ」
「わかりました。それでは」
「くれぐれも音楽の話はしないようにね」
「はい」
 こうしてフランツが客の出迎えに向かった。彼は家の中の薄暗い階段をを降りながら一人呟いていた。
「歌を歌えないってのは残念な話だよな」
 アントニアのことを思ってこう呟く。
「わしは歌は得意じゃないがステップやダンスは得意なのに」
 呟きながらステップを踏む。そして階段を降りていく。
「ダンスは何でもござれだけれど。歌はなあ。せめてお嬢様の歌が聞ければ」
「御免下さい」
「はいよ」
 扉の向こうの声に応える。若い男の声であった。
「どなたかいらっしゃいますか」
「皆いますよ。どなたですか」
 そう言いながら扉の側まで来る。そしてそれを開けた。するとそこには二人の若い男がいた。
「おや、ホフマンさん」
「はい」
 ホフマンは彼に挨拶をした。
「ニクラウスさんも」
「どうも」
 そしてニクラウスもそれに続いた。
「一体何の御用件ですか」
「お嬢様はおられますか」
「おられることはおられますが」
「どうかされたのですか」
 言葉を濁すフランツに問う。
「どうも。御身体が」
「歌えないというのでしょうか」
「そんなことはもっての他です。歌われればえらいことになります」
「そんな」
「だから言ったじゃないか」
 ニクラウスがそれを聞いてホフマンに対して言う。
「彼女はもう歌えないって。僕の言った通りだっただろう?」
「けれど」
「それでも宜しいですか?」
 フランツはまた尋ねてきた。
「それでも宜しければ御案内致しますが」
「ううん」
「どうするんだ、ホフマン」
「そうだな」
「帰るか?」
 そう友に問う。だが返事は決まっていた。
「いや、ここまで来たんだし」
「御会いになられるんですね」
「うん。いいかな」
「ええ。歌はなしで。それで宜しければ」
「わかった。それじゃあ」
「どうぞお入り下さい」
 こうして二人はアントニアの部屋に案内されることになった。だが部屋の中に入るとそこには誰もいなかった。

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