暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
Chapter.1 邂逅
3話「泉の淵で」
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泉の水は呑めるから、呑んできたらどう?」

 さっきの飛竜の事らしい。ただ簡潔にそう言うと、少女は喉が渇いたのか、こちらを少々警戒しながらも泉の淵へ行き、手ですくってそれを美味そうに呑んでいる。

 どうやら死への恐怖やショックなどは杞憂に終わったようだが、さて、これからどうしよう。

 まずはこの少女にここがどこなのか聞かなければいけないし、だが、それを聞くには色々と問題がある。

 自分の身体を見下ろすと、狭間に閉じ込められた時と何ら変わりはない。ただ、腹が猛烈に減っているだけ。さっき水を数口呑んだのが、空きっ腹に堪えた。竜の一件で空腹感を一時的に忘れられていたものの、水が胃に刺激を与えたらしい。

 ならば、その上少女に何か食べ物を貰わねばならない。だが、正体も不明な男に、果たしてはいどうぞと携帯食を渡してくれるだろうか。……普通なら、不審がって真っ先に逃げるか攻撃してくるだろう。むむ……。

 早くも首をもたげてきた問題を、少女の後ろ姿を眺めながら考える。やがて存分に呑み終わって帰ってきた少女は、言いにくそうに、あの、と口を開いた。まだ考えていた俺は、ハッとして彼女の方へ向く。少女は、羽織った魔道士の好む白いローブの土くれをぱんぱんとはたくと、言った。

「助けてくれたみたいで、ありがとう」

「ああ……いや、咄嗟に君を抱えて逃げてきただけだから」

「それでも」

 相手は人間だ。あの飛竜が彼らの中でどれ程の強さを有しているのかは知らないが、無難にここは場を凌ぐ方を選んだ。どうやら意識を失う数秒前に見たジルニトラの最期の一件は忘れているらしい。よかったよかった。

「不躾だけど……何故この神殿にいるの? ここは一般人立ち入り禁止区域なんだけど……」

「え、そうなの?」

 まさかそんな展開になるとも知らず、つい本音が出た。どうしよう、と考えた結果、一番怪しいが一番無難な方向に話を持って行った。嘘をつくのは少々心苦しいが、しかたあるまい。誰が自分は捨てられた遣い魔ですと言うだろうか。ここまできたら、もう人間の振りをするしかない。

「実はどうも俺記憶が何処か曖昧で……。ふらふらと当てもなく彷徨ってるうちにこの森に入っちゃったんだ」

「記憶喪失?」

 全くその通りだと言うように頷く。少女は親切にも説明を始めてくれた。この子は人を疑ったりしないのだろうか。言動からしても、雰囲気からしても、どこかの貴族の令嬢、だったりするのか。

「ここは青の森と言うの。通称:魔の力の聖域(サンクチュアリ)。樹齢数千年を迎えた木々が、その身の内に精霊を宿して、自ら魔力を発していると考えられているわ。世界に4箇所しかなくて、全部その森を保有している国が立ち入り禁止に
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