暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
Chapter.1 邂逅
2話「蒼き森の神殿」
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つく握りすぎたせいで、先の傷口からの血が掌を伝わり石の床に落ちた。

「うう……」

 陣が淡く光った――と思った瞬間、ぐいんと私の中にあった魔力が吸い込まれる。ここに至るまでに溜めてあった殆どの魔力を吸われ、精神的な苦痛に思わず声が漏れた。

「きゃっ!」

 突然、魔法陣を中心に、眩い光と突風が吹き荒れる。契約召喚の魔法陣を発動すると、その陣を中心として異界の風が吹くのは分かってはいるが、未だかつて、これ程までに強い風を見に浴びたことは無い。思わず祈りの姿勢を崩して、お尻をついてしまった。

 やがて魔法陣からの光と風が止む。目を覆っていた腕を離すと、そこには風の名残で砂煙が上がっている。私の足元に、黒焦げになったハフリの花びらが落ちていた。手に取ろうと触れると一瞬で灰の砂となり、風に散っていく。ハフリの花がここまで酷いありさまになるのを見たことがない私は、召喚が失敗したのではと危惧し、未だに収まらない砂煙を凝視する。

 ゆらりと人影があった。どうやら召喚は成功した――と安心する間もなく、私はギョッとして前をまた見た。
 人影がある(・・・・・)? 私は今、ありったけの魔力を陣に注ぎ込んだ。だから、私が扱える最強の魔獣が表われる筈。それが……人型!?

 まさか、魔の眷族でも召喚したか、と焦り始める。

 魔の眷族は、何れも普通の魔獣では到底及ばない力を持つ。それは、この世で最強と呼ばれる魔神――もとい、魔人の血を有しているからだ。だが、その血は薄れるごとに、獣を異形へと変えていく。つまり、より人型に近くなれば成程、奴らは強くなるのだ。
 そして、完全に人と見分けがつかない者が、この世界のヒエラルキーの頂点にいる、魔人。
 しかし、一番の下っ端として知られる魔の眷族『グリッグ』でも、単体Bランク評定を受けている。仮にそれが来たとしても、今魔力がほとんど残っていない私では叶わない。

(しまった……!!)

 たまにいるのだ。あまりにも必死に祈りすぎて、自らの力量を越えたモンスターを召喚してしまう召喚魔道士が。まさか自分がそんな駆け出しの召喚魔道士のような事をすると思わなかった。

「ギシャァァァァアアアッ!!!!!」

 耳を劈くような叫びが、静かな魔の力の聖域(サンクチュアリ)に響く。収まり始めていた砂煙は、中心にいた獣――魔の眷族第八世代、黒き飛竜「ジルニトラ」の羽ばたきによって散った。中にいたのが人型ではなく飛竜だった事にも驚いたが、そんな事を呑気に考えている場合ではない。
 一般的に言われる飛竜「ワイバーン」の上位種であるジルニトラは、単体Aランク評定。グリッグなど、束になってかかってもこの竜には勝てまい。
 当然、今の私が勝てる確率など、皆無に等し
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