暁 〜小説投稿サイト〜
Fate/stay night -the last fencer-
第一部
運命の夜の先へ
一日の終わり
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ングを見て霊体化してくれ」

 ハンドルを切り、一旦スーパーを通り過ぎる。
 夕飯時が近いこともあって店の周辺は人通りが多いが、一度くらい人目が無くなる瞬間はあるだろう。

 もしもタイミングが無ければ、路地の方にでも入り込んでそこで霊体化してもらえばいい。





 後ろにフェンサーを引き連れて入店。

 空調で適度に保たれた室温を感じながら、籠を手に提げて食品売り場を順々に回る。

「スメタナまだ家にあったっけかなあ。なかったらサワークリームで代用。スビョークラは……さすがにスーパーには置いてないか。食料品店に行かなきゃな」

 スビョークラはトマトを代わりにすればいい。
 スメタナはサワークリームとはマイルドさが違うので正確な代用品にはならないが、そこは個人のオリジナリティと言えば言い訳にはなる。

 特殊な調味料だの食材だのは、食料専門の店に行かなければ置いていない。

 町中に存在する庶民の味方であるスーパーでは、マイナー品を置いておくほどの余裕もないだろう。

(何なの、それ?)
(んー? 今日の晩御飯に必要な食材。ロシアじゃメジャーな食材なんだが、やっぱり日本じゃそこらにおいてあるわけもない)
(ロシア料理を作るの?)
(母方が露系の血筋だったからな。家でもロシア料理が多かったんで、お袋の味を真似しようと思ったらロシア料理を覚えざるを得なかっただけさ)

 母がクォーターだったので俺自身にロシアの血は薄いが、目はよく見ると微かに翠がかっている。
 血の名残といえばその程度だが、両親の子供だったという繋がりはこうして母の味を俺が覚えているということしかない。

 彼らが俺に遺してくれたものなんて思い出しかなく、写真や遺留品の類は曽祖父さんが全て処分してしまったので、形となって残るものなど何も無い。

 時間が経つにつれて風化していく思い出。
 たとえ父や母の顔さえ忘れてしまったとしても、せめてこの手料理の記憶(あじ)だけは、いつまでも残し続けていたかった。

 そんなことを考えながら、野菜売り場を歩く。

「トマトに玉ねぎに……近頃の野菜の値上がりはお財布事情に痛すぎる……ま、しばらくはこのまんまだろうな」
(牛肉200g特売特価……すごいわね、下手したらお肉より野菜の方が高いじゃない)

 籠の中にストンと落ちるパック。

 霊体化を活かして、専業主婦(おばちゃん)たちの戦場と化しているフロアから牛肉パックをかっぱらってくるフェンサー。
 誰もが我先にと鬼気迫る表情で手を伸ばす中、一瞬だけ実体化して取り合いで宙に浮いたパックを掴み、俺が持つ手籠の中へとホールインワン。

 我先にとセール品を争うおばちゃんたちは、フェンサーのことになど目もくれない
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