第二部
第一章 〜暗雲〜
九十四 〜哀しき別れ〜
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「入れ」
「…………」
「入れと言っている!」
苛立ったように、兵が少女の背を押した。
「あっ!」
そのまま、天幕の中に倒れ込む少女。
「これ。手荒く扱うでない」
「はっ、しかし」
兵は、憎々しげに少女を見ている。
「もう下がって良い」
「はっ!」
天幕には、皆が揃っていた。
無論、協皇子と盧植もいる。
「お前が、彼の覆面の軍師か?」
「フン。だったらどうだと言うの?」
嘲るような物言いに、彩(張コウ)が激高する。
「貴様! 自分の立場がわかっているのか!」
「止さぬか」
「し、しかし!」
「止せと申しておる。……さて、まずは名を聞こうか」
「…………」
「どうした? 私の名を勝手に呼んだのだ、お前も名乗るべきであろう」
「そんなの知ったこっちゃない。さっさと首を刎ねるがいい」
「……そうか。では、望み通りにしてやろう」
愛紗から受け取った兼定を抜き、少女に突き付ける。
雛里だけが顔色を変えたようだが、風が制したようだ。
「言い残す事があれば聞いてやろう」
「余裕だな。でも、お前もここにいる連中も、もうすぐ死ぬんだぞ?」
「何だと! どういう意味なのだ!」
「そのままの意味だ。精々、苦しむがいいさ」
少女の高笑いに、愛紗や星らの顔にも怒りが浮かぶ。
「……その声。そうか、お前は李儒だな」
「殿下。ご存じなのですか?」
「ああ、黄忠。嘗て、月の麾下だった者だ」
李儒か。
確かに、董卓の軍師として知られる人物であったな。
だが、今の今まで名前すら聞かなかったのだが。
「嘗て、と仰いましたな。殿下?」
「そうだ、趙雲。今は追放され、月とは何の関係もない筈だ」
「で、その赤の他人の筈の貴様が、何故このような大それた事をしたのだ?」
愛紗が、李儒に詰め寄る。
「そんな事、どうだっていいだろうが。さあ、斬れよ」
ふむ、虚勢を張っている訳ではないようだな。
刃先が目の前に迫っても、顔色一つ変えぬとは。
ひとまず、私は刀を収める事とした。
「殿下。追放された、との事ですが……理由はご存じでござるか?」
「私も詳しくは知らぬ。だが、詠との確執が原因とは聞いた事がある」
と、李儒の顔に憎悪が浮かんだ。
「どうやら、詠ちゃんがお嫌いのようですねー」
「当たり前だ。奴さえいなければ、あたしが……あたしがっ!」
「だが、詠は月と幼馴染みだ。その間に割って入るなど、どだい無理な話ではないのか?」
「そんな事はわかっている! だから、あたしは董卓様の一番は諦めていた。例え二番手でもいい、認めて貰えればそれで良かった」
一気に捲し立てる李儒。
「そんなある日、あたしに千載一遇の機会がやって来た。賈駆が不在の折、異民族が攻め込んで来た。あたしが軍師とし
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