暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第一章 〜暗雲〜
九十四 〜哀しき別れ〜
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はいつにも増して上がっていた。
 そして何より。
「貴様ら! 一兵たりとも逃さんぞ!」
 戦斧を振り回しつつ、疾風が敵を薙ぎ倒していく。
 日頃は冷静な疾風も、今日ばかりは鬼と化していた。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「逃すかっ!」
 すっかり逃げ腰になっている敵兵がまた一人、二人とその手にかかる。
 まさに、一騎当千の暴れぶりであった。
 将がその有様で、兵が奮い立たぬ筈もない。
 数の上では劣勢だった筈の我が軍だが、死体の山を築いているのは敵軍ばかりだ。
「流石に、止める訳にはいきませんね」
「……はい。本来、策なしで正面からの力押しは勧められないのですが」
 雛里と禀は、顔を見合わせて溜息をついた。
「お兄さん、ですがこれを利用しない手はないと思うのですよ」
「……うむ。愛紗、鈴々に、敵兵が洛陽に逃げ込むのに乗じてなだれ込めと伝えよ」
「応!」
 使い番が、すかさず駆け出す。
「星。愛紗らが突入する直前に、城内の様子を探っておけ。伏兵の可能性は低いと思うが」
「御意!」
 彩と紫苑も、一隊を率いて敵を蹂躙している。
 時折、自暴自棄になって此方に攻めかかってくる者もいるが、散発的な攻撃故に脅威とはなり得ぬ。
 李カクと郭シさえ捕らえるか討ち取れば、後は烏合の衆であろう。
 と、協皇子が溜息混じりに頭を振る。
「……まさか、洛陽が外から攻められる姿を見る事になろうとはな」
「殿下。これも全て、悪しき者らの所業故の事ですぞ」
「わかってはいるが……。これでは、朝廷の権威も何もあったものではないな」
「殿下! 滅多な事を仰せられますな!」
 窘める盧植の顔にも、疲労が感じられた。
「土方様! 城門を突破しました!」
「うむ。くれぐれも、城内の庶人には手を出すな。一切の略奪も暴行も許さぬ」
「はっ!」
 使い番に指示を与え、私は振り返った。
「では殿下。参りましょうぞ」
「うむ。頼むぞ、土方」
 私は一礼し、馬に跨がった。
 追い詰められた宦官共が、更なる暴挙に出る前に防がねばならぬ。
 月、待っておれ。
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