暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第一章 〜暗雲〜
九十四 〜哀しき別れ〜
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ならぬ。お前は我が娘、死なせる訳にはいかぬ」
 華佗はすぐには見つからぬであろうが、最善の手は尽くさねば。
「……父上。ど、どうか……。娘の、たった一つの我が儘を聞いて下さい……」
「白兎。ならぬと申した筈だ」
「……い、嫌です……」
 頑なに頭を振る。
「歳三殿。お気持ちは察しますが……」
「疾風。お前まで何を申す」
「お聞き届け下さいませ。……義妹の、最後の願いを」
 下唇を、ギュッと噛んだ。
 血の味が、口の中に広がる。
「……わかった。申すが良い」
「……はい」
 かすかに頷くと、白兎は話し始めた。
「あ、姉上は……。陛下と共に、幽閉されています」
「何故だ。何故、急にこのような事に」
 疾風が呟く。
「何進様が仰せの通り……け、荊州の反乱は全て、十常侍の差し金です……。交州に追いやった筈の父上が、交州で更なる力を得ようとしている事に……」
「恐れを抱いた、というのだな?」
「は、はい……。そ、それで、越権行為の咎で……」
 だが、その企みは全て失敗に終わった。
 それどころか、蔡和という生き証人まで我が手に落ちたのだ。
「そ、それで十常侍は、陛下に迫って父上を逆賊とする勅令を出すように、と……」
「逆賊は宦官共の方ではないか! なんたる思い上がりだ!」
 憤懣やるかたない疾風。
 私も憤りは覚えるが、白兎の言葉を聞いてやるのが先だ。
「で、ですが、陛下はそれを拒みました。……そして、業を煮やした十常侍は……」
「……では、月は無事なのだな?」
「……はい」
 そこまで話すと、白兎は眼を閉じた。
「白兎?」
「……あねうえ……。いままで、ありがとうございました」
「何を言うのだ! 気をしっかり持て!」
「い、いいんです。……ちちうえ……」
「此所にいるぞ」
 私は、白兎の手を握った。
 既に、温もりは失われつつあるのがわかる。
「おねがいです……。あねうえを、あねうえを……」
「心配致すな。万難を排してでも、必ず救い出す」
「……ありがとう……ございます。そ、それから……だきしめてください……」
「ああ」
 その小さな身体を、腕の中に包み込んだ。
「あったかい……」
「白兎。済まぬ、父らしき事は何もしてやれなかった」
「……いいえ。こうして……」
 ガクリと、白兎の身体から力が抜ける。
「白兎? 眼を開けるんだ!」
 その頬を、疾風が懸命に叩く。
「白兎!」
「……無駄だ……」
「白兎ーっ!」
 疾風は絶叫し、地面を何度も叩いた。
 私は白兎の身体を抱いたまま、立ち上がる。
 十常侍共……我が娘を殺めた罪、必ず贖わせてやる。

 怒濤の如き勢いで進軍した我らは、程なく李カク、郭シ軍と衝突。
 白兎の死、そして洛中での事は全軍に知れ渡り、士気
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ