第二部
第一章 〜暗雲〜
九十四 〜哀しき別れ〜
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な。だが、それはお前の見込み違いだ」
「何ですと……?」
「確かに、詠は月の為ならどのような苦難にも立ち向かうであろう。だが、それは月を甘やかしているという訳ではない。寧ろ、詠は月に厳しく当たる事も屡々だ」
「…………」
「それに、この土方はそこまで狭量な男ではない。お前が月に認められようとするならば、それだけの機会は与えた筈だ」
「……だから、どうだと仰せなのですか」
李儒は、冷たく言い放つ。
「今更、あたしに悔い改めよとでも仰せですか? 無駄な事です、もう何もかも手遅れなのですから」
「小娘、それはどういう事じゃ」
「そのままの意味ですよ、盧植様」
そして、私を見据える。
「もう話す事はない。さっさと首を刎ねろ」
「本当に、それで良いのか?」
「諄い!」
聞く耳持たぬ、か。
既に死を覚悟した者、翻意させるのは難しいであろうが……だが、やはり一度は月に会わせてやるべきだな。
「連れて行け。見張りは厳重にせよ」
「土方! この期に及んで情けをかけるつもりか!」
引っ立てようとした兵に抵抗し、李儒は私に詰め寄る。
「お前など、いつでも斬れる。だが、月に言いたい事があるのであろう? ならば、それぐらいは叶えてやろうと思ってな」
「……つくづく度し難い奴だな」
「おのれ。主がここまで仰せというに、重ねての侮辱は許さん!」
「星。良い」
「主!」
「はは、首すらも刎ねて貰えないか。ならば、仕方ない……ぐっ!」
李儒が、不意に苦い表情になる。
そして、ふらふらと倒れ込んだ。
「……いかん。毒を飲んだか」
「な、何ですと!」
「吐き出させろ!」
慌てて愛紗と疾風が駆け寄る。
「む、無駄だ……。このまま逝かせて貰う……」
歯を食いしばり、最後まで抵抗する李儒。
奥歯に毒を仕込んでいたとは……迂闊であった。
「言い残す事はないのか?」
「殿!」
「無駄だ。恐らくは即効性の毒であろう」
「……ひ、ひとつだけ……」
「聞こう」
李儒は、フッと口元を歪める。
「と、董卓様に……。真名を許していただきたかった……と」
「相わかった。月に伝えよう」
「……ば、馬鹿な奴だ……。地獄で待っている……がはっ!」
そして、李儒は大量の血を吐いた。
脈を診たが、既に事切れている。
「馬鹿はお前だ、李儒!」
「勝手に策謀を巡らして、一人勝手に死ぬとは……」
「落ち着け、星、彩。死者を冒涜する事は許されまい、例えそれが悪辣な事を巡らした者であったとしても」
「……は」
「……申し訳ありません」
皆が持ち場に戻り、天幕には協皇子と盧植だけが残った。
李儒については、改めて首を落とした上で遺体は火葬の上、遺骨を葬った。
死人に鞭打つ真似となるやも知れぬが、自ら罪を
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