第二部
第一章 〜暗雲〜
九十四 〜哀しき別れ〜
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て、そいつらを迎撃するように言われた」
「その合戦でしくじりを犯したのか?」
「違う!」
凄まじい形相で、李儒は疾風(徐晃)を睨む。
「合戦では勝利を得た。此方の被害も少なくはなかったが、文句なしに勝ったと言えるだけの戦果は上げた。だがな! 賈駆の奴は、凱旋したあたしを罵倒したんだ!」
「詠が? 確かに詠は容赦のないところもあるが……」
「ああ、容赦なかった。あたしは、異民族を打ち破った後、徹底的に叩くよう進言したのさ。降伏も許さない方がいいと」
「……それを、詠に叱責されたと?」
「そうだ。奴らには、生半可な懐柔策も、温情も通じやしない。だから、完膚無きまでに叩きのめすしかないんだ。……なのに、賈駆はあたしを責めた」
なるほど、李儒の申す通りやも知れぬ。
詠は己の感情ではなく、月の事を思ったに相違あるまい。
月の性格からすれば、そのような苛烈で残忍な真似は耐え難い筈だ。
だが、月はあのような性格故、事実を包み隠さず報告したとて、李儒を叱責する事はまずあり得ぬ。
詠は、己が嫌われ役になる事で、月を傷つけまいとしたのであろうな。
「それで、董卓さんのところを追われたんですね……」
雛里が、同情の眼差しを向ける。
「はん、同情なんて御免だね。けど、あたしは諦めなかった。いつか、董卓様も判って下さる筈だと。……けど」
再び、私を睨む李儒。
「突然、お前が董卓様の前に現れた。そして、あっという間に父娘の契りまで結んでしまったな」
「そうだ」
「おかげで、あたしの計画は全部台無しさ」
李儒は、自嘲の笑みを浮かべた。
「計画?」
「そうだ。董卓様は有能な御方だが、線が細い。賈駆みたいに甘やかすだけの軍師じゃ、役不足なのはわかりきってる。だから、奴さえ始末してしまえば事は足りるとな」
「…………」
あまりの事に、皆は呆然としている。
「だが、土方が現れた事で董卓様は変わってしまわれた。……もう、賈駆を排除したとしても、何の意味もなくなってしまった」
「それで、土方殿に対して謀略を巡らせたと申すのじゃな?」
「ああ。どうせ手に届かない董卓様なら、望み通り父娘仲良く始末してやろうってな。はっはっは、あーっはっは」
狂気じみた笑いが、天幕の中に響き渡る。
「ふむ。それだけか?」
「……何?」
李儒は笑いを収め、私を睨む。
「お前は、結局月に認められるだけの人物ではなかったというだけの事だ。これだけの策謀を巡らすだけの才を持ちながら、惜しい事だ」
「黙れ! お前なんかに、あたしの何がわかる!」
「わかっておらぬのはお前の方だ。……然様ですな、殿下?」
「うむ。李儒とやら」
「…………」
不敬にも、顔を背ける李儒。
だが、協皇子は構わず続ける。
「詠……賈駆が甘い、そう申した
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