アインクラッド 前編
経験は毒針に
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
…?」
ここで突如、マサキが発した疑問を遮って放たれたキリトの絶叫が、広いボス部屋に響き渡った。
「だ……だめだ、下がれ!! 全力で後ろに跳べーーッ!!」
キリトが言うが早いか、イルファングの巨躯が地を揺るがして跳躍した。そのまま空中で体を捻って溜めた力を、着地と同時に一気に解放する。それと同時に出現した真っ赤なライトエフェクトは、見る者に鮮血を連想させた。
その瞬間、マサキには全員の時間が止まったように思えた。攻撃を受けたC隊のプレイヤーたちの頭上には一時的行動不能状態を示す黄色い光が取り巻き、その他のプレイヤーたちも、今起きたことを理解できず、ただ自らの処理能力を超えた情報の前に立ち尽くしている。
やがて、プレイヤーたちよりも一足先にイルファングが長めの硬直から回復した。それにつられてようやくキリトの瞳に光が戻り、同時にエギル以下B隊の面々が援護に走る。
しかし、そんな彼らを嘲笑うが如く、イルファングは手に持った刀――形状からして「野太刀」だろうか――を振り上げた。運悪く餌食となって高々と舞い上がったのは、ここまで部隊を牽引してきたリーダー、ディアベルだった。
自分の体が空中にあることを悟ったディアベルは、必死に反撃のソードスキルを繰り出そうとポーズをとる。が、その体勢はあまりにも不安定で、システムがアシストを開始することはなかった。まるで今から喰らう獲物に対して舌なめずりをするように、イルファングが獰猛な笑みをその顔に刻み、数瞬遅れて再びその手に握られている野太刀を光がまとい、ディアベルの仮想体を切り裂いた。
「チッ……!!」
ここでリーダーを失えば部隊は大混乱に陥り、更なる脱落者が出るだろう。そしてそうなれば、もう二度とボス攻略部隊が編成されることもなくなり、この城からの正攻法での脱出が不可能になってしまう。そう考えたマサキは、ラストの突きが炸裂したのと同時に走り出した。吹っ飛ばされたディアベルの初速、高度、位置から落下点を即座に割り出し、プロ野球選手並みの見事なスライディングキャッチで飛来する騎士の体を受け止める。そしてポーチから取り出したポーションを口内に注ぎ込むが、真っ赤に染まったHPゲージの減少は止まらない。センチネルの処理をアスナとトウマに任せ、キリトを呼ぶ。ディアベルは、虚ろな目でキリトが走り寄って来るのを確認すると、二人だけに聞こえる、掠れた声で言った。
「……後は頼む、キリトさん。ボスを、倒」
耳障りな破砕音と共にその姿を四散させた青髪の騎士が、その言葉を言い終えることはなかった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ