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『彼』とおまえとおれと

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「じゃあ、またね」



「おう。また明日な」



 にこっと笑って(せい)は言った。日紅(ひべに)の家の前。また明日と言っても犀は日紅の手を離そうとしない。



「犀?」



 何か言いたいことがあるのかと日紅が少し戸惑った声で返す。



「日紅。俺、おまえのことマジで好き。大事にしてやりたい。ずっと一緒にいたい。俺が守ってやりたい。全部全部俺のものだったらいいと思ってる」



「な…ん………ぁ」



 日紅は犀にまっすぐ見つめられて思わず顔を逸らした。顔に段々と熱が(こも)る。



「そ…う言うことは直接本人に言わないでください」



「ははっ。直接本人に言わないで誰に言うんだよ。ほら、こっち向けって」



 犀は日紅の熱くなった頬に手をあてて自分の方に向けた。日紅の視線が居心地悪そうに彷徨(さまよ)う。



「せい…」



「ん、なに…?」



 犀が日紅に一歩近づく。犀の顔が目と鼻の先にあって、日紅の声が自然と囁き声になる。犀の(かす)れた声が日紅を包む。



「ち、か、くない?」



 思わず顔を押しのけようと日紅が目の前の顎に触れたその指を、犀の手が掴んだ。



 犀の眼差しが燃えるように日紅を射る。



 犀の顔がすっと近づいた。



 あ…キス…。



 日紅はぎゅっと目を閉じた。日紅の気持ちは、まだ犀とキスしたいとか、そこまでの感情になっていたわけではない。日紅は一緒にいるただそれだけで満足だけれども、犀と日紅自身の気持ちにずれがあるということもわかっている。だから、犀の気持ちは、できる限り大切にしたい。



「ーーーー………」



 一瞬の空白が開いた。息がかかる距離にいる犀の顔はそれ以上動かない。



 もしかして、あたし、勘違いした!?日紅が先走って瞳を閉じたから、犀は戸惑っているのかもしれないと考えたら羞恥で顔がカッと熱くなった。日紅は慌てて目を開けようとした。その瞳が開く前に犀が動いた。



 日紅の髪がふわりと犀の頬に当たる。日紅は犀の熱を全身で感じた。犀の腕が日紅を締め付ける。日紅は犀に抱きしめられていた。強く。



「犀」



「無理、しなくていいから」



 ぼそりと日紅の耳元で犀が言う。



「おまえにそんな顔させたかったわけじゃない。ごめん」



 日紅の胸がずきりと痛んだ。謝らなくていいのに。犀は優しすぎる。自分よりも、いつも日紅を優先してくれる。それは犀の優しさで、日紅は嬉しいと思う反面どこかじれったい。



 もっと、日紅に
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