第四章、その6の3:一線 ※エロ注意
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本降りとなった雨が、真っ暗闇に中に佇む一軒の館に打ち付けられている。窓や壁越しに天の蛮声が轟き、その度に宙を裂いて、光を照らす。一室にて睡眠に就こうとしていたアリッサは耳障りな天の響きを物ともせず、目を閉じていた。先程まで身体に残っていた火照りや、高鳴った胸の律動は一応の静けさを取り戻した。本来であればこのまま眠りに就いても全く問題無いのであるが、気掛かりな事があったために彼女は目を覚ましたままでいたのだ。
ちらと瞳を開けて隣を見遣る。一人には大き過ぎる寝台には、彼女以外にもう一人居る筈である。だが視線を向けた場所には、誰の存在も居なかった。
「・・・・・・ケイタク殿、遅いなぁ」
床に着いて二十分した頃合だろうか、共に寝る予定であった慧卓は、音を立てぬよう密かに部屋を後にしていたのだ。大方寝る前に厠にて用を済ませに向かったのであろうが、しかしそれにしては随分と長く感じる。体内時計で計る限り、既に寝台から抜け出して二十分は経過しようとしていた。
彼が居なくなってからというもの、瞼が重くならないのだ。己と寝台を共にするべき人物が居ないというのは、どうにも落ち着かないというのが本音でもある。そしてなにより、先までの胸の高鳴りを起こしていた元凶とも言うべき存在が、自分勝手に居なくなって、更には眠気まで阻害してくるのは理不尽にも感じたのだ。
「・・・んしょっと・・・」
アリッサは彼の様子が気になり、寝台から起き上がる。騎士として鍛え抜かれつつも自然と形成された美しき体躯のラインが、ほとんど透けて見えるくらい薄地の寝巻きの上に、軽く上着を纏った。燭台に火を燈してほんわかと暗闇を照らし、彼女は部屋から出て厠へと向かっていく。古めかしい木造の館の一階部分に厠があるのだ。
館には余り人が留まっていない。精々領主とその娘と執事、或いは客人だけである。他の者は隣接した別棟に宿泊しており、アリッサが派遣した兵等もこの建物に入って、長路の労を癒しているのである。
風も無いのに建物がぎしりと揺れるように感じるのは、きっと雷雨の勢いのためであろう。建築物としては若干不安があるが、賢人が住まう辺り、安全性は保障されているといえよう。ぎしりと小さく音が鳴る階段を、出来るだけ静かに踏みしめて降りていく。無明ゆえに手元の燭台の明かりだけが頼りであり、段差を注意深く降りていった。
厠の前まで、館内に居る寝静まった者達を起こさぬようゆっくりと歩く。そして厠の前に立つと、アリッサの耳は聞き慣れない、くちゅくちゅという水音を聞く事になる。それはどこか切羽詰ったような、男の喘ぎの中に混じった音であった。
『はぁ・・・はぁ・・・』
「えっ・・・何?」
アリッサは耳を欹てて意識を向ける。水音は一定の間隔、それもかなりの早さを伴って
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