第四章、その6の2:東のエルフ
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むんむんと、蝿が黒い肉に集っている。血の気を失った液体や生々しい破片が地面の土を混ざりつつあり、それが風雨によって自然の肥料となるにはそう遠くないだろう。雲が落とす暗い影の中、その生気を失った躯は膨れた腹を破裂させ、腐臭漂う腹の内を無遠慮に露出していた。蝿が集るのはその部分であり、夥しき数の蛆もまた、砂糖水に集う蟻の如く躯全体でかちかちと歯を鳴らしているようであった。
「・・・酷い様だ。パウリナを連れて来なくてよかったな」
「ええ。最近耐性がついてきたと言っても、流石にこれは無理でしょうね。・・・くんくん。うえっ、やっぱり臭いが酷い」
「ゆくぞ。長居しては獣が寄って来る」
馬上よりそれを見詰めていた慧卓は顔を横に振りながら馬の腹を蹴り、再び道を歩いていく。エルフ領土というのは、東に行けば行くほど荒涼とするものらしい。地面の雑草は疎らであり、蹄が引っかく地面もかさついている。前を行くアリッサの後姿は常と変わらず凛々しいが、その手は油断無く剣の柄に添えられており、充分に警戒すべき状況下であるという事を、否応無く慧卓に伝えてくれた。
タイガの森にて慧卓は、残りの賢人等を訪問するためにアリッサと二人のみで行く事、残った者達はイル=フードの動向と目的について更に詳しく調査する事を提案、調停官の猛烈な賛成の下に採択された。護衛をつけぬとは何事かという至極全うな反論のために、当初は護衛の兵が幾人かついていた。しかし道路上、最も想定していた危険地帯を踏破すると、アリッサは護衛も要らぬと兵等を伝令として活用、向かう予定である賢人ソ=ギィの村までの伝令として遣わしたのである。
かくして東への旅路数日目にして慧卓と二人っきりとなったアリッサは、どことなく浮かれ気分でいた最中、この死体を発見した次第であった。彼女の表情は一転、すぐさま硬くなっていくのは容易な事といえよう。特にこのような物騒なものを発見した時はそうであり、ついでにいえば今発見したのは二体目の死体である。彼女が一気に警戒心を増しているのが感じ取れた。
「・・・あの死体、誰かに殺されたものですよね?」
「ああ。腹部が真横に引き裂かれていたし、獣の仕業にしては鮮やか過ぎる。人の手によるものだ、あれは。・・・しかし、街道の傍で人殺しがあるとは・・・。このような事態になっているとは、イル=フードからは教えられなかった」
「内乱寸前となっているのは我等とて承知の事。一々瑣末な事を言及しても趨勢に影響を与えるほどではなく、これは重要視されるものではないと判断しての事でしょう」
「その解釈は、少し度が過ぎると思うがな。彼にとって見れば、下手に物騒な事を伝えて我等の行動を束縛するような真似を避けたかったのだろう・・・。いや、これも好意的過ぎるか」
「どちらであろうとも彼にとっては、『
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