第四章、その6の2:東のエルフ
[4/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、賊の頭が一つ、棒立ちの体から零れ落ちた。骨をも裁断する一太刀は流石は近衛騎士、鋭利な肉の断面であり、血潮は噴き出たりせず湧き水のように流れていた。
恐怖の声が幾つも上がり、賊らは崩れ落ちる仲間の体躯を放置して方々に散ろうとする。慧卓は遅れて追いつき、左方へ逃げる一人の賊に向かわんとする。賊は彼に気付くと傍にある木から枝を折り、切っ先を馬に向けてひゅっと突き付けた。ベルは疾駆を止めて前足を高々と上げ、慧卓は思わず馬から落ちそうになった。
「あぶなっ!?何すんだ、てめぇっ!!」
逆上した慧卓は馬首を素早く返ると、右手に持った剣でもって木の枝諸共、賊の手を引き裂く。腱を裂かれた賊は枝を落とし、続く一刀にて胸を裂かれて木に打ちつけられた。男が気を失うのを見てから慧卓はベルの鼻先に手を遣った。痛々しい掠り傷が鼻の横に出来ている。
「ふざけやがって!唯で済まして、おわっ!?」
飛来した矢を仰け反ってかわす。未だ賊は幾人か生き残っており、気概のある者は反撃に転じようとしているらしい。木々の間を抜けてアリッサの声が聞こえて来た。
「逃がすなよ!全員斬るぞ!!」
「ああああ''あ''あっ!!!」
悲痛な断末魔が林を揺らす。アリッサに追い付かれて、木々の陰で賊が一人斬られたようだ。最早残る賊は少なく戦意も無きに等しいものである。しかしアリッサに躊躇は無く、再び害意を起す前に切伏せねばなるまいと馬に手綱を打っているようだ。慧卓もまた彼女と同じく騎士の名を頂く者。剣を流れる血に更なる紅を塗らんと、ベルの腹を蹴り付けた。
幾分か、東方の林の一角にて攻防と逃走が続いたかが、呻くような声と境にそれは終焉を迎える。最後に残った賊を背後から切り裂いた慧卓は、額に汗を垂らしながら、まじまじとその死体を見詰める。一時の紛糾を終えて冷静になって、初めて気付いた所がある。今まで遭遇してきた賊徒と比べれば身形が幾分か整っており、服装の統一性が見られる。唯の賊徒であれば解れ穢れも構わぬ衣服を着たり、或いは粗野な格好をしているのが普通である。だが彼らにはそれが見えず、山腹に潜む不逞の輩というよりも、野に田畑を持つ者として見た方が自然と思えるのだ。
そうであっても襲撃を掛けられた事実は消えず、慧卓は空いた手でぽりぽりと頬を掻いた。
「前途多難過ぎますよ・・・先が思いやられる」
「全くだ・・・。こいつら、どこの者だ?」
アリッサが近寄ってきてそう呟く。彼女も同様の感想を持っていたらしく、解せぬといった具合に骸を見下ろしていた。
ふと、木々の間から複数の足音が近付いてくるのが聞こえ、アリッサは鋭い視線を走らせた。幾人もの男達、無論エルフ、が二人を取り囲んで槍の穂先を向ける。賊徒とは違う一糸乱れぬ動きに、慧卓らは剣を構えるのを留まった
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ