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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十四話 終焉
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苦笑している。ヴァレンシュタインだけではない、ミハマ中佐もだ。
「無茶ばかりするからであろう」
「それも有るでしょう。しかし本当のところは先が見えない事への不安が原因だと思います。同盟、帝国、フェザーン、そして地球、全てが混沌としています。……この先どうなるのか、どう動くのか、それを私に訊かれても困るのですけどね」

やれやれ、予防線を張られたか……。
「長身の士官が随分と息まいておったようだが……、あれがワイドボーン中将か」
「ええ、……まあワイドボーン中将は良いのですよ、彼はね。厄介なのはもう一人の方です」
「エル・ファシルの英雄だな……」
ヴァレンシュタインが無言で頷いた。

「ふむ、ヤン・ウェンリーとは肌が合わぬか」
「そういう訳では有りませんが……」
「有りませんが?」
「向こうは何処かで私を警戒していると思います。なかなか警戒を解いてくれない……」
またヴァレンシュタインが苦笑した。今度はミハマ中佐は笑わない。なるほど、微妙な空気が有るらしい。

「……帝国へ戻ってはどうだ」
「帝国へ?」
「同盟ではどれほど功を立てようと亡命者であろう。なかなか受け入れられぬのではないかな」

半分は本心だ、後の半分は……、さて何だろう? 策か? どうも違うような気がするが……。不思議な事にミハマ中佐は何の感情も見せなかった、ただ黙って聞いている。そしてヴァレンシュタインも彼女を気にするそぶりを見せない。この二人にはかなり強い信頼関係が有るようだ。

「私は反逆者ですよ、レムシャイド伯」
ヴァレンシュタインが楽しそうに笑い声を上げた。私も釣られて笑い声を上げた。
「言われてみればそうであったな。しかし、卿が反逆者だとは誰も思ってはいまい、むしろ卿は犠牲者であろう。それに今では地球教の陰謀を暴いた功労者でもある」
実際リヒテンラーデ侯がカストロプ公を利用しようとさえしなければこの男は帝国に居たはずだ。

「帝国に戻っても三日生きていられたら奇跡でしょうね、私は帝国人を一千万人も殺したんですから」
「……」
「……」
沈黙が落ちた。一千万人という数字が重く圧し掛かる。

「……もう少し減らす事は出来なかったのか、一桁数字が違えばかなり違ったと思うのだが」
冗談めかして問い掛けた。自然と小声になっていた。何処か秘密めいた口調だった。
「難しいですね、五百万人ぐらいなら簡単に増やせるのですが、減らすのはちょっと……」
同じように冗談めかして答えてきた。

「困った男だな」
「困った男です」
ヴァレンシュタインが声を上げて笑ったが私には共に笑うことは出来なかった。何処か痛々しい。ミハマ中佐も切なそうにヴァレンシュタインを見ている、彼女も笑うことが出来ない……。

ヴァレンシュタイン
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