第十章 (1)
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、大理石で出来た少女の仮面のように凍りついた。
彼らは武骨な腕で流迦を押さえつけ、アイマスクを被せ、拘束具でその折れそうな腕を戒めた。それはとても粗雑で、乱暴な扱いだった。…呼んだ柚木さえ、ちょっと引くほど。やがて彼女が身動きを取れなくなったころ、1人の看護士が僕らに向き直った。
「お騒がせしております。…おかしな光景に見えるかもしれませんが、この患者は『それ』を必要とする患者でして…」
「余計なことをいうな。もう何もしない」
イラついたように声を荒げ、彼女は首だけを僕に振り向けた。
「一つ、教えておいてあげる。…『ビアンキ』は、重大な問題を内包する欠陥プログラム」
「欠陥……?」
「…今すぐ、アンインストールしなさい。これ以上、情が移らないうちに…」
その唇が、きれいな弧を描いた。
…意味を問い詰める前に、彼女は看護士達に引っ立てられていった。
彼女の姿が消えた瞬間、体中から力が抜けて瘧のように震え始めた。…止まらない、柚木の呼びかける声が遠くに、とても遠くに聞こえる。何度も、何度も呼びかけられているのに、100m向こうにいるみたいだ。…寒い。寒くて気が狂いそうだ…
「なんでだろう、僕…」
柚木の声…だと思ってたものは人の声ですらなくなり、遠くで鐘を突いたような雑音にとって替わられた。床も天井も消え、上も下もない白い靄だけが、僕の現実になっていく。それは闇と変わらない、一寸先も見えない白い靄。僕だけしかいない白い靄のなかで、確かめるように言葉を紡ぐ…
「なんでだろう、殺されたのに。僕は殺されたのに」
――自分の声すら、鐘の音に飲み込まれて聞こえない。自分が何を言ってるのかすら分からない。ごぉおぉぉおおぉぉおん…ごぉおぉぉおおぉぉおん…と、耳朶を打つ遠い鐘の音だけ。
「…そうだよ、あの時だってそうだった」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん
「あのひとは僕を殺したのに…僕を、呪ったのに」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん
「なんで」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「なんで僕は…喜んでいるんだ?」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「なんで、こんなに嬉しいんだ?」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「――今度は、殺されるのに」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「嘘だ」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「信じるな」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「感情を、信じるな」
――ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん、ごぉおぉぉおおぉぉおん
「感情を信じたから、僕
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