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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十一話 わりと忙しい使用人達の一日
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に遠い目をするが、すぐに視線を現実に戻し、当主の忠臣へ視線を向ける。
「――まぁそれは兎も角、俺もそろそろ軍務に復帰する時期だ。
分かっていると思うが、皇都は加速度的に物騒さを増していくからな。皆を頼むよ、山崎。」
 真摯な視線を感じ、山崎は知らずと嬉しそうに笑みを浮かべていた
――そんな不安そうにしなくても私にとっては当たり前の事だ。これでも下士官時代に大殿について以来の二十余年、幸運な人生を送らせてもらっている恩義がある。
「お任せ下さい」
 その言葉に何かを感じたのか、一瞬口篭った後に帰ってきた豊久の返答は少々そっけないものの心情を知るには十分すぎるものだった。
「あぁ、その、何だ、――ありがとう。」
 窓を閉め、背を向けても山崎には耳朶を真っ赤にしているのが良く分かる、
声の響きだけでなく、彼の背後にいる山崎の主が嬉しそうに、面白そうに笑っている姿が見えたからでもある。
「それでは私はこれで失礼します。」
 嘗ての被害者の勘が人を食った笑みに変わった老人が硬直している孫を毒牙にかける場面を見る事もなく巻き込まれない内に転進すべきであると告げていた。



今日は一段と光帯が美しい、気分の問題なのか気候の問題なのかは判断がつかないが
私はそう感じた。
「おや?山崎、こんな所で珍しいですね。」
聞きなれた声が背後から響く。
「あぁ、辺里さん。確かに珍しいかもしれないな。」
 十五年に及ぶ付き合いの上司が厨房口に立っていた。

「酒を久しぶりに飲みたくてね。まぁ度を超すつもりはないさ、文字通り一杯だけだ。
光帯を肴に、ってな」
そんな風雅を気取るなんて珍しい、と辺里が軽く笑っていると。
「あれ? こんな処で御二人とも何をしているんですか?」
柚木と石光が連れ立って――いや柚木が石光を引き連れてやって来た。
「なに、晩酌の素晴らしさについて語っていたのさ。」
「御一緒しましょうか?」
 山崎の言葉を聞くや否や柚木が爛々と目を輝かせた
 屈強な下士官上がりの中年男が自分の子供と同じ年頃の娘に気圧されている様を老家令頭と少年使用人が面白そうに眺めている。
「分かった、分かった、ならば折角だ。四人で呑もう。但し、一杯だけだぞ。
皆、明日に酔いを残させるわけにはいかんからな。」
不満そうに口を尖らせる柚木に、それを慰める石光。
そしてそれを横目で見て笑っている辺里が珍しくからかうような声でこっそりと山崎に囁く。
「いいのですか?柄にもなく風流を気取るつもりなのでは?」

「柄じゃないからやめだ。まぁ、それに、――こういうのも悪くはないだろう?
あわただしい使用人達の一日の閉めに相応しい。」


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