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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十一話 わりと忙しい使用人達の一日
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も苦いものが多分に混じった笑みで豊久に云った。
「おまけに実現する為に動くのは私と父上に弓月殿だ、お前じゃないと来たものだ。
まったくもって素晴らしいじゃないか、ん?」
 そろりそろり、と会話の邪魔をしないように柚木は盆を運び、杯を満たし、菓子を添える。
互いに邪魔せずに気づかぬふりをするのが礼儀である。
 「じゃなかったら言いませんよ、こんな面倒くさい事。それに弓月閣下には現状を打破しうるという莫大な利益があり、我々は他家との間により強力な独自の伝手を求める事が出来る。
えるものは中々に大きい、悪い手ではないと思いますが」
そういいながら豊久は目礼しながらで柚木に出ていくように示す。
使用人が部屋を出るのを見送ると豊久は援軍を求めて義父へ視線を送り、それを受けた内務省第三位の官僚は肩を竦めて答える。
「その点は興味深いが、君の父上が動いてくれなくてはどうにもならないな」
 「と、閣下はおおせですが?」
間髪入れずに義父の言葉を拾い、実の父へと球を放った。予想外の連携攻撃を受けた豊守はあきらめのため息をつく。
「やるだけはやってみよう、まずは駒州の大殿に――」
「勅任参事官の職務の内だから省内の根回し自体は大して手間はかからん。むしろ面倒なのはその上に持ち込む際の事だな、執政府内ですむのならどうにか予備計画の一つとして押し通す事ができるが、陸軍の――」
 彼らの会話は既に厚い扉に遮られ、柚木が聞くことはなく、また同時に記憶されることもない。そうした点において、馬堂家は極めて将家な選び方で使用人をあつめているのであった。


同日 午後第八刻 馬堂家上屋敷庭園
馬堂家警護班 班長 山崎寅助


 弓月伯の馬車に護衛を二名程つけ、本日の特殊業務は終了した。
本日の仕事は犬を入れ替えて何時もの報告へ出向くだけであり、後は通常の当番制に戻る旨を伝えれば山崎は寝床へ戻るまでしばしの自由を味わう事ができた。
「大殿様。」
 自分の心根どうように軽やかに書斎と庭を繋ぐ窓の下を叩くが顔を出したのは彼が軍人時代から仕えている相手の孫であった。
「残念、俺だ、御祖父様は父上のところにちょいと話を詰めに行ったよ。
ま、俺が代わりでも問題ないだろ?」
逆光であっても不敵な笑みを浮かべているのがわかる。
「はい、それでは御報告を――」



「――以上です」

「視警院からの方々は、まぁ当然だな。先代の警保局長殿に万が一の事があれば内務省も良い面の皮だ、当然、護衛もつくだろうさ。」

「えぇ、家名だけのお飾りでもありませんからね。何かあったら内務省の勢力図が大変動してしまいます」

「あぁ、目敏い御方だよ、御祖父様や父上によく似ている。
――その上、娘達の方まで察しが良いからなぁ」
そう云ってわずか
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