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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十一話 わりと忙しい使用人達の一日
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の手伝いとして訪れた書斎の主は帳面と鉄筆、そして足を乗せた文机と
椅子に体を預けて――うなされていた。

「あの、大丈夫なのでしょうか?」
 柚木が心配するのも無理はないほどに豊久の顔面は蒼白で、額に脂汗を浮かべている。

「初陣の後を思い出します。あの時も、うなされていました。」
 優しく汗を拭う姿はまるでこの青年の祖父であるかの様である。彼が産まれた時から見守っているのだ、当然なのかもしれない。

「なんだ――っと辺里か――あまり驚かさないでくれよ」
 ぼそり、と呟きながら何時の間にか片手に握っていた鉄筆を机に投げ戻している。
「申し訳ありません。うなされたおいででしたので、差し出がましい事をしました。」
 当の辺里は顔色一つ変えずに足置きにされていた卓上の体裁を整えている。
「いいよ、有難う辺里、おまけのついでに柚木も。こんなトコ御祖父様に見られたら酷い目にあうしね。」
 そう言った時には常の愛想のよい顔つきに戻っていた。
「おまけのついでって何ですか、酷いで「それで辺里。どうしたんだ?」 聞けよヘタレ」
「それよりも、豊久様。若殿様がもう間も無くお帰りになる御時間で御座います」
 辺里はじゃれあう(?)二人を僅かに微笑を浮かべて眺めながら必要なことだけ伝える。

「父上が、ってことは伯爵閣下も御同行なさっているのだな?」
「はい。御一緒だそうです。」
 そういいながら辺里は流れるような動作で軍装を差し出す。
「――まぁ、俺も相談したい事があるし調度良いか。」
 そう言いながら肩をこきゅこきゅと回しながら立ち上がると既に少壮気鋭の若手中佐の顔になっている。
「柚木」

「はい、黒茶はもうすぐできますよ。敦っちゃ――もとい宮川が持ってまいります」

「ん。ありがとう。応接間におかせておいてくれ。
着替えたら私も出迎えにでなくてはならないからね」
 表情は同じでも発した声が与える印象は全く変わっている。
 ――これも一種の才能なのかしら?
柚木の思考をよそに豊久は軍人貴族の顔へと完全に転じるべくその衣を纏いだした。


同日 午後第七刻半 馬堂家上屋敷 応接間
馬堂家使用人 柚木薫


 応接間に侵入した柚木はそろそろと茶と菓子を運びながら可能な限り主と客人たちの意識の外で居られるように歩き出す。話の内容にはさして興味はない――というよりも持たない方がいいと理解しているからこそ雇われているのだと自覚している。

「――また面倒なものをかんがえついたものだね、君は」
弓月伯爵は丁重に口を拭きながら一番若輩ものである英雄中佐に視線を向けた。
「少なくとも私を謀殺して一代早く家督を乗っ取ろうとしているように見える、半分本気でな」
 兵部大臣の官房で総務課理事官を務めている豊守
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