アインクラッド編
回想――別れ
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ダッカーが答える。
「お、俺たち・・・・レベルも上がってきたし、あの場所なら余裕だろうって・・・・トラップが多くある場所だってことも知らなかったし・・・・」
「知らなかった、じゃ済まないだろ! わたしがいなかったら今頃・・・・」
その続きは言葉にならなかった。
言ってしまったら現実に起こってしまいそうで怖かったのだ。
「き、キリト・・・・・? どうしたの――――」
恐る恐るといった様子でキリトの表情を窺いながら問いかけたサチが言葉に詰まった。
キリトは目に涙を浮かべていた。
そんなことこの世界にやってきてから一度もなかった。
サチがキリトに涙を見せたことは何度かある。だが、逆はこれが初めてだった。
「ケイタ、だいぶ前のことだけど、覚えてる・・・・? ケイタが攻略組に必要なのは意志力だって言った時のこと」
キリトの態度に驚いた様子のケイタだったが、頷く。
その会話はまだキリトが〈月夜の黒猫団〉のレベリングを手伝うことになってから数日後の時だった。
安全地帯でサチお手製の弁当を食べながらケイタが語ったのだ。
「確かに・・・・下層で怯えているプレイヤーのために戦いと思うケイタの意志が間違っているわけじゃない。でも―――」
そこでケイタだけでなく全員に向けて伝えるかのように視線を回したキリトが続きを口にする。
「―――でも、攻略組にとって、最前線で生き残るために最も必要なのは、他人のために戦う意志力でもないし、プレイヤーとしての技術でもない。本当に必要なのは、情報。どこで戦えば効率が良いか、どの場所が危険か・・・・そういった情報を手に入れることが何より大事なんだ・・・・」
誰もがキリトの言葉を聞き入る。
だが、キリトは彼らに言いながら、自分自身にも言い聞かせていた。
―――――違う。
彼らが悪いんじゃない。
悪いのは・・・・罪を負うべきは自分だ。
彼らを死の危険に追い込んだのは自分だ。
そう、糾弾する声がキリトの奥底に生まれた。
自分は必要な情報を教えず、それでいて不用意にレベル上げだけに付き合っていた。
彼らに尊敬されて、彼らを助けて、彼らを守って。それで優越感に浸り、ビーターであることから目を背けて、満足していたのだ。
きちんと彼らにも情報を分け隔て無く公開していれば、今回の事件は未然に防げた。
いつも通り、安全な狩り場でコル稼ぎをしていただろう。
そうだ。分かっていたことのはずだった。
ビーターである自分がなぜ圧倒的なレベルを保持できているか。
それは、第10層までの完璧な情報を所持していた事による非ベータテスターの追随を許さないスタートダッシュのおかげではないか。
プレイヤーとしての技術に大きな差などない。
あるのは情報量の違い。
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