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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第53話 炎の少女
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に炎の精霊を纏わせ、遙か虚空に浮かぶ姿は、神話上に語られし女神の姿そのもの。

 憎悪に染まった水の邪神が、崇拝される者を睨んだ瞬間――――――――。
 水の分子を紡ぎ合わせた糸が、風を、そして大地を。その触れる物すべてを斬り裂いて行き始めた。

 それは――そう。神の炎に蝕まれながらも、自らを護るべき精霊すべてを攻撃に動員し、崇拝される者を追う、水の分子を紡ぎし死の糸。
 既に自由落下の兆候を示し始めていた崇拝される者に取って、この攻撃を避けるには、彼女の炎の羽根を広げるか……。

 しかし!

 両者の間に浮かぶ影がひとつ。
 崇拝される者よりも、そして、水の邪神よりも僅かに早い俺が……。

 宝刀が蒼銀に閃く度に、刻まれる水の分子。刻まれる度に、新たに紡ぎ出される死を紡ぐ糸!
 無数の……いや、幾万の死を紡ぐ糸が、月の光を僅かに反射しながらも、死の旋律を奏でる。そして、そのひとつひとつが俺と崇拝される者の生命を奪わんとして……。

 時間が歪む。俺に出来るアガレスの能力の最大行使。
 そう。この瞬間、俺の体感時間が、異常に引き延ばされ――――――――。

 七星の宝刀を一閃。返す刀で更に、一閃。未だ足りない。
 その一瞬の後、俺の周囲に浮かぶ防御用の魔法陣。物理攻撃反射により、水の邪神の元にゆっくりと上がる血風(呪力)
 しかし、未だ足りない。

 異常に引き延ばされた時間の中で、自らに回避不能な分子レベルの煌めきが迫るのが判る。
 長くはない。しかし、今までの生と、これから進むはずで有った未来の出来事まで垣間見えた刹那の瞬間。

 俺の周りに浮かぶ、防御用の魔法陣。その数、数十に及ぶ。

 すべてを絡め取り、斬り裂く死の糸と、そのすべてを阻む防御陣が妙なる音楽を奏でる。
 これは、死の旋律。
 防御陣が死の糸を無効化する度に奏でる細やかな音色が、重なり、集まった物がひとつの儚い曲となった物。
 寂しさと、哀しさに染まった死の旋律。

 瞬転、寂しさの音色に包まれた世界を斬り裂く紅蓮の太刀。
 紅き炎の精霊が舞い続ける中で、紅蓮の炎を纏った太刀が水の邪神を肩口から袈裟懸けに斬り降ろし……。

 そして……。


☆★☆★☆


 すべてが終わり、月と星空が支配する七夕の夜を取り戻した世界。

「最後の場面、ありがとうな」

 俺は、最初に湖の乙女に対しての御礼を口にして置く。流石にあの瞬間。死の糸……単分子チェーンソーと言うべき攻撃に迫られた瞬間は、それなりの被害……。最悪、死を覚悟しましたから。
 あの瞬間、俺の周囲は濃霧に等しいレベルにまで集められた死の糸に覆われていましたから。

 真っ直ぐに俺を見つめた後に、コクリと小さく首肯く湖の乙女。
 
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