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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第52話 共工
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 その際に発せられる……、世界が上書きされるとてつもない違和感。歪んで仕舞った世界が、再び、通常の理の支配する世界へと復帰する際の眩暈にも似た異常な感覚が俺を、そして、おそらく世界自体を包み込む。

 そして……。
 そして、世界は異常な水に支配されし空間から、炎の支配する空間が、少しずつ勢力を盛り返して行く事が理解出来る。

 刹那、動き出す、セーラー服姿の少女。
 そう、何時の間に顕われたので有ろうか、紅蓮の炎に包まれた俺の傍らに立って居た一人の少女が走り出し……。
 彼女の右手に握られた炎を纏いし一刀が、今まさに、蒼き姫に対して振り下ろされようとした水の邪神の氷刃を――――――――
 弾き上げた。

 非常に高い金属同士がぶつかり合う音を発し、再び距離を取る水の邪神と、蒼き吸血姫を護った炎の女神。



 少女の、艶めくようなぬばたまの黒髪が自ら巻き起こす熱風に舞い、紅の火の粉を舞い散らせる。蒼と紅、ふたつの月を背にした、その立ち姿は……。
 力強いと同時に、……ひどく、優美な存在で有った。

 そう。炎の少女を中心とした、荒れ狂う水と炎が創り出すこの光景は、まるで自らの死期を悟った絵師に因り、渾身の作として残された名画を思わせる物。そう思わせるに相応しい光景で有り、

 片や、紅き血の色を模した長い髪の毛を持つ水の邪神の周囲には、彼女の従えた水の精霊たちが舞い踊る。
 その姿は、美の中に含まれる狂気。

 こちらは、狂気に囚われた絵師が、最期の一筆にまで己が才能の限りを尽くして表現した、見る者を死と狂気の世界へと誘う名画と表現すべき存在、及び光景で有った。

 青玉に彩られし胸甲に護られた、紅い髪の女性が笑った。彼女(水の邪神)に相応しい表情を浮かべて。



「わたしを呼んだのは、コレの相手をしろ、と言う事なのか?」

 俺の方を振り返る事もなく、崇拝される者、女神ブリギッドがそう聞いて来る。以前に出会った時と同じ、見た目からは想像も付かない程、落ち着いた声音、及び雰囲気で。
 俺は、ゆっくりと歩を進め、ブリギットの傍らに立った。

 そして、

「オマエさんに頼みたいのは、この世界の上書き。水の気の勝ち過ぎたこの異界を、オマエさんの炎の気で上書きを頼みたいだけ」

 ……と、彼女の問いに対して、答えを返した。

 そもそも、このラグドリアン湖の異常増水事件の解決は、俺とタバサの任務です。
 いや、ここにやって来てから、もう一人含めた、三人で対処すべき事件です。そこに、彼女、女神ブリギッドに事件を丸投げしても良い理由は有りません。

 まして、現状のこの事態は確かにガリアの危機と言えなくも有りませんが、しかし、俺とタバサだけで対処し切れない事態では有りません。

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