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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第51話 湖の乙女
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に着陸してからやな」

 上空より見下ろした先に広がる光る湖面を見つめながら、俺はそう話を締め括った。
 そこには――――、そう。まるで、鏡面の如く夜空を映した、もうひとつの宇宙が存在しているかのようで有った。


☆★☆★☆


 二人の女神の姿が湖面に優しい光を落としていた。
 上品な暗穹は、まるで上質なビロードの如く蒼穹を覆い、其処に散りばめられた星々は宝石の如く悠久の時を教え、
 そして、寄せては返し、返しては寄せを繰り返す水の営みは、湖面を渡る涼風と相まって、限り有る時の儚さを報せる。

 但し、一週間(八日)前まで確かに浜が有ったはずの箇所が、既に半分以上、その土の支配領域が水の領域へと浸食されて居る事を如実に語ってもいたのですが。

 双月に照らされし、夜に相応しい気を纏う蒼き姫を見つめる俺。
 そう。この任務はタバサに下されし任務。ならば、彼女の許可を受けてから始めるべき。

 ……と、形式論で武装してみるのですが、実は、聞く者を穏やかな気持ちにさせる寄せ来る波の音と、真夏の昼を支配する容赦なく照らす陽の光りとは違う紅と蒼の月の穏やかな光り。そして、俺をその瞳に映す蒼き吸血鬼(あおきひめ)を記憶の中に留めて置きたかった。ただ、それだけなのですが。
 新たに夜の属性を手に入れた、元々、冬と水の属性を持つ彼女を……。

 タバサが無言で首肯く。彼女に相応しい表情を浮かべて。

 俺も同じように首肯いて答える。そして、

「ウィンディーネ」

 青玉に封じられし水の精霊を現界させる俺。確かに自らが潜って行って探す、と言う選択肢がない訳でもないのですが、それよりは水の精霊に頼む方が確実ですし、精霊とは仕事を与えられる事を喜びとしていますから、こちらの方が良いでしょう。
 そして、次の瞬間。派手な演出もなく、青玉より顕われる水の精霊ウィンディーネ。

「そうしたら、すまんけどこの湖に住む湖の精霊と言う存在を、この場に連れて来て貰えるかな。拒否されたら、無理強いする必要はないから」

 俺の依頼に無言で首肯き、そのまま、ラグドリアン湖の湖水に姿を消すウィンディーネ。これで、このラグドリアン湖に、その湖の精霊とやらが住んで居るのならば、彼女に任せて置けば、確実にここに連れて来てくれるでしょう。
 そして、その時に、そのラグドリアン湖の精霊と呼ばれる存在が、俺の夢の世界に顕われた湖の乙女と名乗った少女と同一人物かどうかが判りますから。

 そう考えながら、俺は、左腕の腕時計にて時刻を確認する。
 時刻は午前零時を少し回ったトコロ。空には、紅と蒼。二人の女神が煌々と灯り、地球世界の暦で言うのなら、天の川の両岸に立つ牽牛星と織女星が、年に一度。今晩だけ出会う事を許されたと言う夜。


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