第5章 契約
第51話 湖の乙女
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そして、更に続けて
「これは解釈が難しいけど、俺に刻まれた使い魔のルーンに関する事象だと思う」
……と、自らの主人に告げたのだった。
そう。これはおそらく、オーディンが左目を失った伝承に繋がる現象。
魔術の知識を得る為に、知恵の神ミーミルに自らの左目を差し出し、代わりに知識を得たオーディン。
俺は、タバサと擬似的な血の契約を為し、彼女とのより深い繋がりを得る代償として、更にオーディンに近い能力と未来を得たと言う事なのでしょう。
「聖痕とは、全人類の原罪を背負って果てた救世主の伝承を再現するもの」
俺の言葉が紡がれる度に、彼女の指先から暖かさが失われて行く。
「オーディンの伝承とは、ラグナロクと呼ばれる最終戦争で、フェンリルと呼ばれる魔獣に呑み込まれて死亡する伝承」
夜に相応しい内容を、ただ淡々と告げる俺。
そう。既に、すべての生け贄の印は刻まれ、オーディンの印に関係する追体験も起こりつつ有る。
そうして、対する世界の危機。最終戦争。ラグナロクに相当する何かも、大体の想像が付きつつ有る。
これだけ、レア物のクトゥルフ神話に登場する魔物の相手をさせられたら、嫌でも気が付くでしょう、普通は。
旧神……いや、地球産の神々と、外なる神々の争いに巻き込まれて仕舞ったと言う事が。
タバサが何かを言いたげな。伝えたげな雰囲気で俺を見つめた。
……これは、決意。何物にも揺るがぬ決意を秘めた瞳。
「あなたは死なせない」
俺を逃がさないようにするかのようなその視線。そして、俺に安易な結末を選ばせないかのような、その真摯な瞳の中心に俺の顔を映す蒼き姫。
「例え、すべての事象。運命さえもが貴方を連れて行こうとしても、わたしがそれを許さない」
これは誓約。誰に誓った物でもない。たった一人。自らに誓った誓約。
使い魔のルーンにしても、聖痕にしても、クソったれな神とやらが刻んでいるのなら、誓約を誓う相手は誰でもない。それは自分自身以外に存在しない。
そして同時に、これで、簡単にケリを着ける方法を試す事は出来なくなったと言う事でも有ります。
どんな結末が待っているにせよ、この目の前の少女に残してやる物が有るのなら、それはそれで良いか、……と言う、自らが楽に成る為の安易な結末を。
俺としては、それが一番簡単で楽なのですが。
「心配する必要はない」
俺は、握ったままの右手に少し力を籠めてそう言う。そして、
「俺は、約束を忘れた訳やない」
柔らかく、そして小さな手に、少しの力を籠めて握り返して来る蒼き姫。
其処に、少しの温かさが宿り始める。
「この件に関しては、二人で対処する」
彼女を哀しませない為だ
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