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蒼き夢の果てに
第4章 聖痕
第49話 太歳星君
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待機状態で待ち続けるしか方法は有りませんから……。

 本当に楽しい事を見つけたかのような雰囲気を発しながら、ソルジーヴィオと呼ばれた青年は更に続けた。
 彼に相応しい東洋的な笑みを浮かべながら……。
 彼に相応しい悪意を発しながら……。

「邪神の贄に相応しいのは、それに相応しい黒き心に満たされた心臓。
 自らが世界の王と成ろうとする黒き目的を持った存在の血」

 昏き天井を背にしながら、詠うように台詞を口にするソルジーヴィオ。
 左腕にイザベラの意外に小さな身体を抱え、右手は不自然な動きを……。

 刹那、悪趣味で派手な衣装を朱に染め、ブランシュー伯爵の内側から飛び出すソルジーヴィオの右手。
 どうなったのか判らず、自らの胸から突き出された、その赤黒き色に染まった右手を見つめるブランシュー伯爵。

 体外に取り出されながらも、未だ不気味な脈を打ち続け、彼に相応しい赤黒い液体を撒き散らせながら、ソルジーヴィオの右手の中で留まり続ける心臓。
 予想外の生け贄に因る、予想通りの結末へと進む物語。

「これで、すべての準備は整いましたよ、ブランシュー伯爵」

 本当に。心から嬉しそうな声を上げるソルジーヴィオ。但し、何時の間にか彼の右手は、彼の直ぐ傍。つまり、通常の彼の右手が有るべき場所に存在し、ソルジーヴィオの右手に因って支えられていたブランシュー伯爵が、彼から吹き出した赤黒き液体に因って作り上げられた水溜まりに、その身体を倒れ込ませる。

「もっとも、貴方が望んだ世界を、自らの瞳で見る事は不可能ですけどね」

 陽の気に分類される笑いを浮かべながらも、その発して居るのは陰の気。そして、呪詛に等しい台詞を、十人中八人までの女性が好意を抱くで有ろう整った顔立ちと、甘い声で口にした。

 次の刹那、身体から切り離されて尚、どくどくと不気味な脈を打つ事を止めなかったブランシュー伯爵のたったひとつ残された、生きて居る部分がソルジーヴィオの右手より。
 そして、この異常な事態の進行する地下の大空洞内に有ってたった一人、こんこんと眠り続けていたガリアの姫が、ソルジーヴィオの左腕より。

 無造作に放り出された。

 それぞれが、物理法則を無視した形で空中より地上へと向かって進む。
 片や、血を含んでいるにしても、重さにして今は一キログラムも存在していないで有ろう、ブランシュー伯爵が残せし欠片は、矢のような勢いで巨石を用いた遺跡の中央を目指し、
 片や、風に翻弄されし木の葉の如く不規則な動きを繰り返し、地上との激突への道を辿るガリアの姫。

 その瞬間、動き出す俺とタバサ。
 優先すべきはガリアの姫。確かに蘇生魔法は有るが、それも確実ではない。

 目指すは、俺が心臓。そして、タバサがイザベラ。

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