A's編
第三十話 裏 後 (シグナム、アリサ)
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すべての魔力を開放するように大爆発を起こす。
爆発の大きさを表すように耳をつんざくような爆発音と大きく広がる爆炎。それは結界破壊効果を伴った必殺の技だった。どんな結界であろうとも、この必殺技であれば砕けると信じていた。そう、信じていた。しかし、その信頼は裏切られることなる。
爆炎が晴れた向こう側に広がっていたのは、いまだ健在している結界。
「バカ……な」
自分の魔力よりも相当上の結界とて破壊できるはずの魔法だった。しかし、それでも破壊できなかった。まるで、シグナムの切り札を最初から知っていたように強化された結界だったということである。せっかく、仲間が体を張って作ってくれた時間を使って繰り出した必殺技が無意味に終わったことに打ちひしがれるシグナム。しかし、彼女をさらに絶望に突き落とす一言が背後からささやかれた。
「残念だったね」
振り向かずともわかる。この背筋から恐怖が這い上がるような声を忘れるわけがない。方法はわからずともヴォルケンリッタ―を全滅へと導こうとしている死神のような女性。
シグナムは、間違いなく、この瞬間に死神の鎌にとらわれた。なぜなら、女性の手がシグナムの首根っこをつかんだからだ。
その刹那、シグナムに電流のようなものが走る。まるで、自分の中に侵入してこようとしているような、いや、侵入している。まるで身体の中を麻酔なしで弄られているような、そんな違和感を感じる。しかし、それは生物のように動きながら、実に機械的にシグナムを処理していく。最初に、闇の書との連結を切られた。もはやシグナムに闇の書とのラインが感じられない。完全に切り離され、今のシグナムは、ただのシグナムという名のプログラムだった。
それから、じっくりとシグナムの中を整理していく。シグナムという名のスタンドアローンのPCのファイルを整理するように。戦いに関する情報を収集し、今日までの得難い経験を―――思い出を容赦なく消していく。
姉のように見守ってきた今までの生活も、はやてという主を得て感じていた家族という絆も、はやてが甘えてきた瞬間も、ヴィータがはやてから怒られている様子を苦笑しながら見守っていたことも、料理を失敗してしまったシャマルを慰めながら、何とも言えない料理を食べことも、犬扱いしているのをわかっていながら我慢してなされるままにブラッシングされているザフィーラの姿も。ここにきて得られた家族との思い出が、すべて、すべて消されていく。
やめてくれ、と懇願したところで意味はない。本当に機械的に無慈悲に、冷徹に、容赦なく『それ』はシグナムからすべてを奪っていった。
―――主、申し訳ありません。私たちは……。
もはや、主が誰なのか思い出せない状態だというのに、愛おしいと思っていたはずの彼女へ
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