A's編
第三十話 裏 後 (シグナム、アリサ)
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結界からも脱出できるだろう」
「それはっ!!」
ザフィーラの言っていることは理解できる。シグナムの切り札ともいえるシュツルムファルケンには、結界破壊の効果がある。よってこの結界を破壊できる可能性もあるだろう。しかし、切り札というだけあって、魔力も時間も必要だ。幸いにしてカートリッジの予備はある。しかし、目の前の彼女から時間を稼ぐには至難の業だ。おそらく、ザフィーラが持っているのは決死の覚悟。自らが犠牲になることでシグナムを逃がそうとしている。だからこそ、シグナムも制止の声を上げたのだ。
しかし、ザフィーラはシグナムの声を無視した。シグナムに背中を向けて静かに語る。
「主はやては、守らなければならないお方だ。ここで二人とも死ぬわけにはいかない。そして、お前はこの場を切り抜ける方法を持っている。ならば、可能性が高いほうを優先するのは当然のことだ」
それは、ザフィーラの盾の守護獣としての在り方なのか。あるいは、本当に可能性が高い手法を選択しただけなのか。いや、たとえザフィーラであれば、自分のみが生還できる可能性を持っていたとしても、おそらくここで犠牲になろうとするだろう。なぜなら、彼は盾の守護中であり、仲間を、主を護る盾なのだから。
その覚悟がわかったのか、シグナムはザフィーラの背中にこれ以上、何も言うことはできなかった。
「……主はやてに伝えてくれ。主に仕えることができて、幸せでした、と」
おそらく、それはザフィーラの最期の言葉だろう。だから、将として、騎士として、仲間として、シグナムは力強くうなずいた。ああ、任せろ、と。その声を聞いて安心したのか、ザフィーラはふっ、と笑うと、決死の覚悟を浮かべて構える。彼の武器は鍛え上げた肉体だ。
「盾の守護獣ザフィーラっ! 参るっ!!」
ザフィーラが最高速で、一直線に名も知らぬ女性に向かって突撃する。ザフィーラが浮かべる表情は、獲物を狙うような獣の獰猛さを隠していない。鋭い八重歯をむき出しにした決死の表情だ。おそらく、彼も冷静を装っていたが、ヴィータが消えたことに憤っているのだろう。
ザフィーラが稼いでくれる時間を無駄にしないためにもシグナムはシュツルムファルケンの準備を始める。カートリッジを補填し、魔力を全身に漲らせる。
不意にザフィーラの様子をうかがってみれば、怒涛のごとくザフィーラが女性に殴りかかっていた。もっとも、そのすべてが女性に対しては無意味。避けられたり、プロテクションで防がれたり。彼女がもつ圧倒的な魔力を使わず、まるで一つ一つの動きを確かめるように動いていた。なぜ、一瞬で勝負を決めないのかわからない。しかし、これはシグナムたちにとってもチャンスだった。もしかしたら、ザフィーラがまだ無事なうちに脱出口を作れるかもしれない。
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