A's編
第三十話 裏 後 (シグナム、アリサ)
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誰とも知れない相手から呼び出されていくわけがない。少なくともアリサはそう思っていた。しかし、そんな娘の考えがよほどおかしかったのか、一瞬、呆けたような表情をして次の瞬間、梓は爆笑していた。それこそ、涙が出てしまうほどに。笑っていた時間はどれくらいだっただろうか。少なくともアリサが席を立たなかったのだからそんなに長い時間ではなかったようだ。
笑い終えた梓は目じりの涙を拭いながら、娘の質問に答えた。
「それはね、翔太くんが男の子で、アリサが女の子だからよ」
悪戯っぽく笑う梓。アリサとしては、梓の言葉の意味が理解できない。しかし、それ以上、梓は答えてくれるつもりはなかったらしく、騙されたと思って書いてみなさい、と言って自らが持っていたのだろう便箋を自分の部屋から取ってきて、アリサに渡した。その便箋は可愛い花柄の便箋だった。ついでにピンクのシンプルな封筒も受け取って。
そのような経緯からアリサは翔太への手紙を書いているのだが、これがなかなか書けない。まるで、文豪の部屋のように失敗した手紙がカーペットの上に転がっていた。
「う〜ん、難しいわね」
手紙を書くなんて初めてだ。メールなら何度もあるが、こうやって書くのは初めてだった。確かに梓が言うようにメールとは違った趣があり、メールのように簡単にはかけない。それにすぐに返信が返ってくるメールと違って、手紙は相手がすぐに聞き返すことができないため、わかりにくい内容ではだめなのだ。相手が勘違いすることなく受け取れる内容でないといけない。
「う〜ん、ママはなんて言ってたかな」
便箋を渡し、笑いながら、最後に与えたアリサへのアドバイス。それを思い出すアリサ。そうそう、最後のアドバイスは、こうだった。
―――手紙は、シンプルでストレートに、ね。
梓の言うことはもっともだ。簡潔、かつストレートに誤解できないように書かなければならないのだから。
「よしっ! 決めたわっ!」
ここにきて、アリサは覚悟を決めた。本当に翔太に言いたいことをだけを簡潔かつストレートに書くことにしたのだ。そうと決めれば、アリサの行動は早い。机の上に広げられた便箋の上に文字を走らせる。
彼女が書いた手紙の本文はたったの一言だけだった。
――――あなたに会いたいです。
つづく
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