A's編
第三十話 裏 中 (ヴィータ、レイジングハート)
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た。それは、ヴィータの核にして、ヴィータをヴィータとして至らしめる根幹だ。そこが浸食されるといううことは、ヴィータにとって脳を直接いじられることとなんら変わりない。そして、自らの身体の一部を浸食されるという嫌悪感は、全身を弄られるよりもひどいものだった。
ヴィータの内部に浸食してきた蒼い光――いや、蒼い光に便乗してきたデバイスの意志だろうか。それらは、冷徹にヴィータからヴィータという部分を抜いてくる。少しずつ少しずつ。まるで虫食い状態にするようにヴィータから記憶や経験を抜いていく。
―――あ、あ、あ、あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……。
手を伸ばすこともできず、抗うこともできず、少しずつ少しずつ自分が自分でなくなることを自覚するヴィータは恐怖を覚える。今まで大切だと思っていた思い出もシャボン玉が割れるように次の瞬間には認識できなくなる。あんなに大切だったのに。次の主になっても忘れないと思っていたのに。それなのに、もう思い出せない。初めて食べたはやての食事の味も。初めて買ってもらった縫いぐるみの容貌も。初めてはやてから頭を撫でられた時のうれしさも。はやてを護ると決めた騎士の決意も。貪欲に、何一つ逃さぬ、とばかりにデバイスはヴィータからすべてを奪っていく。
だんだん、データをアンインストールしていくようにヴィータから奪うデバイスだったが、その速度が一瞬だけ下がった。目の前の女性―――どうして、彼女がいるのかヴィータには思い出せない―――が自分が横を向いていた。それにつられるようにヴィータもその方向を見てみれば、そこにいたのはピンクの髪と西洋剣を持つ騎士の鎧に身を包まれた長身の女性と鍛え上げられた体躯と銀色の獣耳を持つ男性が宙に浮いていた。
―――ああ、あいつら、来てくれたんだ。
もはや彼らの名前すら思い出せない。だが、これだけは知っている。彼らは大切な仲間だと。それはシステム的な記憶ではない。ヴィータという存在がその身に刻んでいる記憶だ。だからこそ、最後まで忘れなかった。手渡すことはなかった。その仲間に向けてヴィータは最後の言葉を絞り出す。
―――ご、め、ん、な。
何に対して謝っているのかすらヴィータにはもはや認識できない。だが、それでも、なぜか謝らなければならないような気がした。それは、この場から自分が退場してしまうことだろうか。あるいは、もっと別な決意を果たせないことだろうか。その答えをヴィータに出すことはできない。ただ、すべてを忘れていっいてるはずなのに、ただ一つのことだけが心残りだった。
―――ああ、はやてのカレーたべた―――
その思いを最後にヴィータのヴィータという意識はテレビの電源を落としたように闇に染まるのだった。
◇ ◇ ◇
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