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リリカルってなんですか?
A's編
第三十話 裏 中 (ヴィータ、レイジングハート)
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って行かれる帽子を握っていた手をずっと離さなかったものの、それは女性から手を叩かれただけで弱々しく外れてしまう。

「ぁ……ぇ……せ」

 返せ、と叫びたかったが、その声も出ない。苛烈なまでの魔力球の雨はヴィータにそこまでのダメージを与えていた。

 だから、ヴィータには帽子に向かって手を伸ばすしかなく、女性の手に収められた帽子を見るしかない。黒と真紅のバリアジャケットに身とつつまれた女性は、しげしげと帽子とヴィータを交互に見る。いや、正確にはヴィータが求めるように伸ばした手だろうか。やがて、その二つを見比べると、にぃ、と口の端を釣り上げて嗤う。

 直後―――びりっ、という布を破くような音とともに帽子は真っ二つに割かれた。そこから、さらに四つに、四つが八つに。もちろん、その中にはヴィータがはやてから初めてもらった呪いウサギも同様だ。最初に首と胴体が二つに分かれた。次に胴体から右手がちぎれた。次に左足が、右足が、耳が、目が。気が付けば、呪いウサギと呼ばれたぬいぐるみは跡形もなく、布と綿に分離してしまった。唯一、地面に呪いウサギの特徴ともいえる縫われた口と大きな赤い眼が残った顔だけが転がっていた。

 女性はそれを嬉々として行っていた。笑いながら。まるで、年上の子どもが、年下の子どもが一生懸命作った砂の城を壊すように。

 もしも、ヴィータが健在であれば、グラーフアイゼンを構えて女性をグラーフアイゼンの染みにしていただろう。だが、今のヴィータにはできない。だから、ただただ悔しさだけがこみあげてくる。何もできないことへの悔しさ。目の前でむざむざと思い出の品を粉砕された悔しさ。その悔しさは、ヴィータの双眸から零れ落ちる雫となって現れていた。

 そんなヴィータを見ていた女性だったが、やがて考え込むようなしぐさをした後、ゆっくりと近づいてきた。もしかすると、止めを刺すつもりかもしれない。しかし、それが理解できたところでヴィータは何もできない。いや、正確には気力すら湧いてこない。肉体的にはいたぶられ、精神的には大切なものを粉々に砕かれたのだから。

 近づいてきた女性は、ゆっくりとデバイスをヴィータに向けてくる。そこから、魔法でも放つのだろうか。それがヴィータの止めになるのだろうか。

 もしも、それが現実であれば、ヴィータにとっていかに幸いだっただろうか。デバイスが発したのは蒼い光だ。それがヴィータを包み込むように広がる。

 ―――えっ、うそだろ? やめろ、やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろっ!!

 ヴィータが叫ぶのも無理はない。蒼い光は、ヴィータを浸食してきた。より正確に言うのであれば、ヴィータの内部。物理的な内部ではなく、ヴィータを構成する闇の書の守護騎士システムそのもののを浸食してき
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