A's編
第三十話
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男の言葉にはやてちゃんが息をのんでいるのがわかったが、僕にははやてちゃんに構っているよう暇はなかった。それよりも、僕は理解した。彼らの瞳の奥にある強い意志を。そう、それでこそ、目の前の男はオブラートに包んではいるが、よくよく観察すればよくわかるではないか。
「……嘘ですよね。あなたが、あなたたちの奥底にあるのは、そんな大義名分じゃないでしょう? 復讐ですか?」
彼の失敗は、僕に何もいうべきではなかったのだ。変なことを話すから僕に悟られてしまう。しかし、これは僕にとっては追いつめられた意趣返しであり、意味のないものである。事実、彼は僕に見破られたからといって取り乱すようなことはなかった。
「ふん、だからどうした。俺たちにはその権利がある。お前にはわからないだろうな。家に帰れば日常があると思って、昨日と同じ今日があって、今日と同じ明日があると思っていたあの頃に、突然血まみれの躯を見せつけられた時の気持ちが、憤りが」
へらへらとした笑みの下にあるのはマグマよりも熱い怒りなのだろうか。その笑みを浮かべているには一度でも感情的になってしまえば、その感情の赴くままに動いてしまうからなのだろうか。もっとも、どちらにしても、僕にはあまり関係のないことだ。僕がやるべきことはたった一つだけなのだから。
「……僕にあなたの気持ちがわかるなんてことは言えません」
僕は近しい人を亡くしたこともなければ、血まみれの躯も見たことがない。そんな僕が彼の気持ちがわかるなんて戯言は吐けない。
「だけど、例え僕があなたの気持ちを理解できたとしても僕がやるべきことは一つだけです」
クロノさんから万が一と言われて渡された杖―――S2Uを構える。構えるといっても漫画を参考にしただけで、何かしらの杖術が使えるわけではない。単なる恰好だけだ。しかし、魔法を使う分には全く問題がない。
「はやてちゃんを護ります。それが僕の任務であり―――なにより、彼女は僕の友人ですから」
「はっ! 麗しき友情だ。だが、そんな見栄は無意味だよっ!」
ああ、そうだ。無意味だろう。『ある程度』では収まらない魔導士が五人。対して、動けるのは僕だけ。勝負になんてなるわけがない。窮鼠が猫をかめるのは一度だけだ。真正面から戦えば、僕が勝てる可能性は冷静に見積もってもほとんどない。できるのは防御を固めての時間稼ぎだけだった。
「今度こそ、そいつを捕まえろっ!!」
最後の時を教えるように大声で男が叫ぶ。目をつむりたくなる。だが、時間は稼がなければならない。護衛の武装隊の人たちがやられていたとしても、この異常事態にクロノさんたちが気付いてくれるまでは。気付いて、助けに来てくれるまでは。それまでは歯を食いしばってでも何としても守らなければならない。
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