A's編
第三十話
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、できれば忘れてほしくなかった。いや、案外、シグナムさんたちに思考が飛んでしまって気付いていなかったというべきなのかもしれないが。
「今、君が感じている体温は誰のもの?」
「―――あっ」
ようやく気付いてくれたようである。
「ねえ、はやてちゃん、大丈夫だよ。彼らにだって何か理由があるのかもしれない。理由があってあんな態度をとったとしても。本当に彼らが忘れてしまったとしても、君は一人じゃない。少なくとも、僕がいるよ。君のそばに。僕ははやてちゃんの友達だからね。だから、大丈夫、安心して―――君は一人じゃない」
孤独に震える少女を慰めるように。語りかけるように僕ははやてちゃんに告げた。君は一人じゃないよ、と。
はやてちゃんがどんな表情をしているか、生憎背を向けている僕はわからなかった。
「……なぁ、ショウ君」
だけど、その言葉が涙声で揺れていることから、大体彼女の表情を想像することは簡単だった。だが、指摘はしない。女性の泣き顔を指摘するのはマナー違反だといつか誰かに教えてもらったから。だから、僕は努めて平坦に返事をする。
「なに?」
「背中、貸してくれんか?」
「僕のなんかでいいのならどうぞ」
そう、僕の背中程度で彼女の悲しみが和らぐのであれば、十分に使ってくれればいい。
「ありがとな」
簡単なお礼。だが、それが彼女の限界だったのだろう。はやてちゃんは、先ほどよりも僕に強く強く抱き着いてくる。背中に感じるのは、濡れているような感覚。彼女のが泣いているのは明白だった。それに声を押し殺すような泣き声も僕の耳には聞こえていた。僕はそれを無視する。彼女が指摘されることを望んでいないから。
八神はやてが泣いていることに気付いているのは、背中を貸している僕とカーテンの隙間から覗き込む冬の澄んだ空気のおかげではっきりと見える月だけだった。
つづく
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