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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十話 国家安全保障談合
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安東家は破産の危機へ瀕したのである。
「見栄を張らずにいうのなら全くその通りですな。金がない、生み出す土壌もないと来ると東州公爵領は重荷にしかならない」
 肩を竦める海良大佐に堂賀准将が矛先を向けた。
「そのような状況で貴官はどうするべきだと考えているのだね?」

「しがらみ抜きでいうのならば義理の叔父上である兵部大臣閣下の提案が一番だと考えておりますね。攻勢の時期は既に失われ、現状で東州単独で生き延びる事は困難です。
現状家内に流布している案のように攻勢に出て他の将家が消耗したら遠からず東州も自壊していしまいます。こう見えても兵站畑もそれなりに耕しておりますので、その程度の見通しはつきますよ。どんな資源も穀物にはならない。〈帝国〉水軍が我が国の水軍を模倣しだしたら真っ先に東州は飢餓により崩壊します。
故に私は陸軍将校ですが、国防方針においてはには東州灘の確保に非常に関心を持っております」
 ――成程。
豊久は年上の大佐に分析の目を向ける。
 ――この大佐殿の最大の関心は皇都の防衛ではなく、東州の生存に絞られているわけだ。
 現状の東州は経済復興のために木材や資源開発の再建に資金を投じ、東州内乱前のように穀物の完全な自給はできていない。だからこそ内地との連絡線を保つ間は反攻の拠点として工業化を推し進め。内地との連絡線である東州灘を〈帝国〉に抑えられる可能性が見えたら――つまり、龍州が陥落したら真っ先に早期講和へと方針を転ずるということか。

「大佐殿のお考えは極めて順当なものであると私も思います」
 その目に狡知の光を宿した海良ににこやかに答えながら内心では舌打ちをする。
 ――そして、この男はそれすらも個人の私見でしかないと牽制している。東州を蔑ろにしたら講和――いや、降伏の工作を行う可能性があると云いたいのか?だが単独では無理だろう。だが資源地帯であり工業地帯でもある東州だけでも十分に交渉の札なりうるか?
守原なり西原なりと組めばどうとでもなるな――面倒な。
自分を棚に上げ、相手の小賢しさを内心罵りながら馬堂中佐は話題の相手を西原大佐へと転ずる。
「西原大佐殿は如何にお考えでしょうか?」

「正直に言うのならばさしたる考えは持っていない。そういった類の事は鎮台司令部の面々に任せているからな」
 平然とそう言ってのける西原信置大佐に海良が目を剥く。
「西原殿、幾らなんでもそれは・・・・」

「そもそも皆の意見を交換しようって言い出したのって大佐殿じゃないですか」
 予想通りの返答に脱力しきった豊久も無駄だと知りつつ突っ込みをいれる。
「そうだったかな?ウフフ」
 ――うわ、うぜぇ。
 もはや諦めの領域に旅立った豊久はいち早く会話から離脱し、眼前の米酒を少しだけ口に含み、つまみを手に取り、意図せずに漫才
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